2.NATOの拡大抑止協議制度

 本項は、NIDS(防衛研究所)コメンタリー第211号新垣拓主任研究官著「NATO 核共有制度について」(2022年3月17日)を参考にしている。

(1)NATOの核攻撃任務の仕組み

 NATO加盟国による核攻撃任務とは次のような仕組みとなっている。

 まず、平時において同盟国内の施設に米国が核兵器を保管・管理しておき、米国を含む同盟国はそれらを搭載できる核搭載可能航空機(DCA:dual capable aircraft)部隊を編成する。

 そして、有事の際に核使用の決定がNATOで下された場合には、同盟国に対して米国から核兵器が提供され、それを搭載したDCAが作戦行動を行う、というものである。

 このように、一般的に認識されているように、同盟国が平時から核兵器を管理するような制度ではなく、有事において米国の核兵器を同盟国が使用することを保証した制度ということができる。

 核攻撃任務の運用については、NATOの決定事項となるが、核兵器の保管に関する取り決めや、訓練、核に関する秘密情報の取り扱い、費用といった具体的な運用に関する事項については、米国の核兵器を保管する施設を提供する同盟国と、核兵器を所有する米国との間で締結される2国間協定に基づいたものとなっている。

 現在、欧州で米軍の核兵器を保管しているのは、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコの5か国(6施設)であり、それらに約150の核爆弾(B61)が保管されているとみられている。

 そして、これら同じ5か国のDCA部隊が核攻撃任務に就いているといわれている。

(2)NATOの核攻撃任務の意志決定プロセス

 NATO防衛のための核兵器使用については、米国大統領および英国首相による承認と、核計画グループ(NPG)における各国政府の承認を経て決定される。

(筆者注:米国と英国は核兵器保有国としての特別の地位を与えられているものと推測する。もう一つの核兵器保有国のフランスは、自国の核政策の自立性を維持する観点から、NATOのNPGには参加していない)

 この決定に基づき、同盟国の核攻撃任務については米国とNATO内で2つの並行したプロセスをたどる。

 まず米国については、米欧州軍司令官(Commander US European Command)の指令により、同盟国内の施設で核兵器を管理する米軍部隊に核兵器移送の指令を下す。

 同時にNATOでは、NATO軍事委員会(NATO Military Committee)の承認を受けた欧州連合軍最高司令官(SACEUR:Supreme Allied Commander Europe)より同盟国の核攻撃部隊に指令が下る。

 このようなプロセスを経て、核攻撃任務は開始される。

 この手続きで明らかなように、NATO防衛のための核兵器使用には核兵器国、特に米国の権限が大きい。

 制度的には、当然ながら米国の意思に反して同盟国が核兵器を使用することはできないし、仮に米国が核使用の決定を下した場合、同盟国がそれを覆す権限を有していない。

 ただし、この制度設計は、当然ながら米国が同盟国の意向を無視するということを意味するものではない。

 米国は究極的な行動の自由を保証されているが、同時に同盟国との間で核抑止に関する政策課題を平素から協議しておくことを重視している。

(3)NPGの重要性

 NATO 核共有制度は、①米英が保有する戦略核戦力、②非核同盟国も含む核攻撃任務、③核抑止に関する問題の検討や意思決定を行う核協議制度の3本柱で構成されている。

 冷戦期に成立したNATO核共有制度は、冷戦終結を経てもなお現在まで維持されている。

 ただし、同盟国が参加する核攻撃任務については、米国の核軍縮政策を受けて核兵器(搭載/発射機)の種類や規模が大幅に縮小された。

 その一方で、核協議制度については大きな変更はなされなかった。

 DCA任務については、軍事的有効性が大きく減少したという懐疑論や、軍縮推進派からの廃止論がある。

 しかしながら、NATOは一貫して同任務を含めた NATO核共有制度維持の姿勢を示している。

 DCA任務が維持されている要因については、①潜在的な敵へのシグナリング機能、②同盟国に対して米国のコミットメントを保証する機能、③米国にとって拡大抑止の責任を受け入れやすくする機能、が評価されているという指摘もある。

 近年、DCA任務以上に重要性が高まっているのは、NATO核共有制度の第3の柱であるNPGという核協議制度である。

 同制度は、ほぼ全加盟国間で核抑止に関する情報の共有、同盟国側の懸念の伝達、核兵器の使用方針をめぐる議論を行う機会の提供等、NATO核抑止体制にとって重要な政策形成・意思決定の場となっている。