1.日本・韓国の拡大抑止協議の経緯

(1)2010年:EDDの設立

 日米は、日米同盟の中核である拡大抑止の維持・強化のあり方を議論するための恒常的な場として、2010年にEDD(Extended Deterrence Dialogue:拡大抑止協議)を設立した。

 EDDが設立された背景には、オバマ米政権が、2009年4月のプラハ演説で「核なき世界」を打ち出したことにより、「核の傘」の提供を受ける日本側が危機感を抱き、米側にEDD立ち上げを求めたことがある。

 以降、年に1、2回程度、外務・防衛当局の実務者(審議官級)で構成するEDDを定期的に開催してきた。

(2)2023年:米韓首脳会談「ワシントン宣言」

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は2023年1月11日の国防部の年頭業務報告で、北朝鮮による挑発の水準が高まれば「韓国が戦術核を配備したり、独自の核を保有したりすることもありうる」と述べた。

 2023年4月26日、訪米した尹錫悦大統領は米国のジョー・バイデン大統領とワシントンで会談し、潜水艦派遣や「核協議グループ(NCG: Nuclear Consultative Group)」新設など対北朝鮮に対する拡大抑止強化で合意した。

 この合意は「ワシントン宣言」と呼ばれる。

 核協議グループ(NCG)は、NATOの「核計画グループ(NPG:Nuclear Planning Group)」を参考に新設されたとされる。NCGとNPGの差異については後述する。

 米政府は、同国の北朝鮮に対する核兵器使用の計画に韓国が関与することを認めた。

 韓国はその見返りとして、自国の核兵器を開発しないことに合意した。

 米国の拡大抑止に関連し、米韓はこれまで高官級の拡大抑止戦略協議体(EDSGC・次官級)、日米は拡大抑止協議(EDD・審議官)など2国間枠組みを通じて協議を続けてきた。

 米韓はさらに一歩進んで、2023年4月末のワシントン宣言で、北朝鮮の核の脅威を管理するために両国次官補が四半期に一度会う「核協議グループ(NCG)」の設立に合意したわけである。

(3)2024年6月:米韓両政府は北朝鮮の核攻撃に対応する際の「共同指針」の検討作業の終了を発表

 米韓両政府は6月10日、ソウルで「核協議グループ(NCG)」の3回目会合を開いた。

 米韓両軍が一体となり、北朝鮮の核攻撃に対応する際の「共同指針」の検討作業を終えたと発表した。

 夏の米韓合同軍事演習に合わせ、米軍の核攻撃シナリオを盛り込んだ机上訓練を実施した。

 米韓両政府は協議後、声明を発表した。共同指針について「同盟の核抑止政策や態勢を維持・強化するための原則と手続きを反映した」と説明した(出典:日本経済新聞2024年6月10日)。

(4)2024年7月:拡大抑止に関する日米閣僚会合

 2024年7月28日、東京において、拡大抑止に関する日米閣僚会合が開催された。日本側からは、上川陽子外務大臣および木原稔防衛大臣が、米側からは、アントニー・ブリンケン国務長官およびロイド・オースティン国防長官が出席し、閣僚レベルで議論を行った。

 概要は以下のとおりである。以下の❶と❷の出典は外務省HPである。

❶双方は、2024年4月10日の日米首脳会談における共同声明も踏まえ、拡大抑止に特化した初の閣僚会合の実施に至ったことを歓迎した。

 また、2010年以降定期的に開催してきているEDDにおいて、拡大抑止の強化に向けた議論が継続的に深化していることを歓迎し、今後ともEDDを中心に、様々なレベルで拡大抑止に関する議論を強化し続けることを確認した。

❷双方は、拡大抑止を一層強化するための協力について突っ込んだ議論を行い、拡大抑止に関する「日米閣僚会合共同発表」を発出した。

 同共同発表では、「抑止力を強化する上での閣僚会合の重要性を強調し、日米両国がEDDを通じて、地域の安定を促進し、紛争の発生を抑止するために拡大抑止を強化する最善の方法を探求し続けることを確認した」などと述べられた。

 上記の拡大抑止に関する初の閣僚会合に関連し、林芳正官房長官は2024年7月29日の記者会見で、「現実に核兵器などの日本に対する安全保障上の脅威が存在する中で、こうした脅威に対応するためには、米国が提供する核を含む拡大抑止が不可欠」と指摘した。

 その上で「米国の拡大抑止を含めて国の安全保障を確保しつつ、同時に、現実を核兵器のない世界という理想に近づけていくべく取り組むということは、決して矛盾することではない」と述べた。

 同時に、今後とも日米EDDや今回の閣僚会合のようなハイレベルでの協議を通じて、拡大抑止の強化に向けた取り組みを進めたいとの認識を示した。