おわりに
日本の政治家が、核兵器をいつ、どのように使用するのかという米国の計画について、日本の関与を認めるよう米政府に要求しているという話は寡聞にして聞いたことがない。
しかし、日米拡大抑止協議が開始されたのは2010年であるので、何らかの協議はなされてきたのであろう。
2022年3月3日、安倍晋三元総理は派閥の会合で、米国の核兵器を同盟国で共有して運用する「核共有」について、NATOに加盟している複数の国で実施されているとして「ウクライナがNATOに入ることができていれば、ロシアによる侵攻はおそらくなかっただろう」と指摘した。
その上で「我が国は米国の核の傘のもとにあるが、いざという時の手順は議論されていない。非核三原則を基本的な方針とした歴史の重さを十分かみしめながら、国民や日本の独立をどう守り抜いていくのか現実を直視しながら議論していかなければならない」と強調した。
さて、日米の間でNATOのような「核共有」ができれば、拡大核抑止力は確実に向上するであろう。
しかし、外国の軍隊による我が国領域内への核兵器の持ち込みは、憲法上禁止されていないが、「持ち込ませず」との非核三原則により、すべて認めないとしている。
従って、非核三原則を見直して、「持ち込ませず」を廃止しなければ「核共有」はできない。
非核三原則の見直しの必要性については、拙稿「提言:国家安全保障戦略の改定で非核三原則の見直しを」(2022年2月15日)を参照されたい。
そうすると、日本ができることは「通常航空戦力による核作戦支援」(SNOWCAT)であろう。
幸い、2015年の平和安全法制の成立に伴い改正された自衛隊法第95条の2では、自衛隊は米軍等の艦艇や航空機の警護に武器を使用できることとなった。
従って、防衛出動下令前においても、空自の戦闘機は核弾頭を搭載した米軍の「B-52」を掩護することができる。
いずれにしても、現行の日米のEDD(拡大抑止協議)において、米国の核兵器使用計画等について日米で緊密に協議していることや、米軍の核攻撃シナリオに基づく机上訓練を日米共同で実施していることなどを適切に情報発信することが、「拡大核抑止力」の信憑性(クレディビリティー)を向上する方途であると考える。