韓国だけじゃない、先進国で「戒厳令」がある国は?

 憲法学者で駒澤大学名誉教授の西修氏は自身の論文のなかで、憲法の国家緊急事態条項を「戦争、外部からの武力攻撃、内乱、組織的なテロ行為、重大なサイバー攻撃、経済的な大恐慌、大規模な自然災害、その脅威が広範に及ぶ伝染病など、平時の統治体制では対処できないような国家の非常時にあって、国家がその存立と国民の生命、安全を守るために、基本的人権の一時的制約をふくむ特別な措置を講じることができる条項」と定義しています。

 予想もしていなかった危機を乗り越えるためには、一時的に国家の権限を拡大し、三権分立や国民の人権に制限をかけてでも、命を守ることを優先しなければならないという考え方です。

 西氏によると、こうした思想の源流は欧州、とくにドイツで発達し、その後、各国の憲法に盛り込まれるようになりました。

 日本の国立国会図書館・調査及び立法調査局が2023年に公表した「諸外国の憲法における緊急事態条項」によると、「非常事態」「国家緊急事態」「防衛事態」といった名称で多くの国が憲法で緊急事態に関する条項を定めています。

図:フロントラインプレス作成
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 経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国で見ると、緊急事態条項を憲法に盛り込んでいるのはアイルランドやイスラエル、イタリア、スペイン、ドイツ、フランスなど30カ国。全体のおよそ8割を占めています。

 これに対し、米国や英国など8カ国は憲法に緊急事態に関する定めがありません。ただし、米英とオーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどは国家の非常事態に関する法律を制定しており、危機の場合は行政に多くの権限を与えます。

 国会図書館の同資料によると、憲法に規定がなく、独自の法律も持っていないOECD加盟国はノルウェーとベルギー、そして日本だけです。