(歴史ライター:西股 総生)
公園化された城や近世の城でも油断は禁物
新春早々、尾籠な話題で恐縮ではあるが、今回は「城歩きのときにトイレをどうするか」についてである。寒い時期こそ切実になる問題なので、どうかご容赦いただきたい。
城歩きの最中にトイレがなくて往生した経験のある方は、少なくないはずだ。かつて、城歩きがオジサンの趣味であった時代には、「いよいよになったらその辺で……」という乱暴な解決法がまかり通ったものだが、老若男女が等しく城歩きを楽しむ今のご時世では、そうもいかない。
ことに問題となるのが、中世〜戦国時代の土の城の場合である。散策路(登山道)や案内板・ベンチ・東屋などは整備されていても、城内にはトイレがない、というケースが非常に多い。
ただし、これは筆者の経験からいうのだが、公園化された城や近世の城でも油断は禁物である。近世の城ならトイレはあるだろう、という安易な思い込みが危難を招く。
城内にトイレがあることはあるのだが、本丸の周辺にはないため、本丸の中で、つまり城歩きが佳境に入ったタイミングでもよおすと、泣く泣く本丸を出て橋を渡り、堀端をぐる〜っと回ってトイレに駆け込む、みたいな事態になりかねない。
わけても警戒すべきは天守で、現存天守や木造天守は当然として、コンクリ天守でも内部にはトイレがない場合が案外多い。松本城や姫路城などは天守内部の各所で渋滞が起きて、いったん入るとなかなか出てこられないことがあるし、天守の最上階から我慢をしながら階段を降りてくるのも難儀である。
こうした危機を回避するため、よく整備された城でも、入口の案内板で抜かりなくトイレの位置を確認するべし。とくに、天守に登閣する前には済ませておくこと。
では、山城・土の城の場合はどうしたらよいか。まず基本的な認識として、山城や土の城にはトイレはないものと心得るべし。もちろん、よく整備された城なら設置してあるが、「あったらラッキー」なのである。
こんな場合の心構えは「出せるときに、出せるだけ出しておく」に尽きる。駅を降りたらまずトイレ。途中に公園なりコンビニなりを見つけたら、すかさずトイレ。「今のところ大丈夫そうだから」などとタカをくくっていると、痛い目にあう。
見学会などグループで城歩きをするときに、降りた駅で皆がトイレに行くと行列になって、時間がもったいなくて悪いから、などと遠慮する人がいるのだが、遠慮は禁物。城歩きの途中で往生してしまう方が、よっぽど同行者に迷惑をかける、と心得よう。
もう一つ、意外に大事な心がけとして、カフェインを控えることがある。カフェインの作用は個人差があるものの、冬場の城歩きでは思いのほか来ると思った方がよい。ふだん家や職場で大丈夫と思っていても、冬場の城歩きではカフェインは控えよう。油断しがちなのがお茶なので、とくに冬場の城歩きに際して心配な方は、麦茶やそば茶などカフェインレスのお茶を選ぶようにするとよい。
最後に、これは古典的教養として頭に入れておきたいことなのだが、やむをえず野天でしゃがむことを、男性の場合は「雉撃ち」、女性の場合は「お花摘み」と表現する。なので、もし仮に同行の女子が「すみません、ちょっとお花摘みに」といっても、親切心から「え、お花? いっしょに摘んであげましょう」などと、申し出てはいけない。
以上、「なあーんだ」と思える内容だったかもしれないが、こういう問題は凡事徹底こそが大事なのである。