小机城の巨大な空堀 撮影/西股 総生(以下同)

(歴史ライター:西股 総生)

土の城入門に最適な城だが……

 横浜市港北区にある小机城は、空堀の聖地である。

 筆者はこれまで何度も、地方から上京した研究者仲間や、城好きの知人をご案内しているが、ほとんどの人がこの城の空堀に目を見はる。「なに、これ……」「こんなの、関西じゃ見たことない……」といった感じで、語尾が「!」ではなく「……」な反応になるのだ。

東から見た小机城。城地は、かつては水田や湿地の中に半島のように突き出した丘だった

 いや、空堀の巨大さだけからいったら、全国にはもっと凄い城があるだろう。けれども小机城の魅力は、単に空堀が巨大なだけでない。首都圏にあって交通至便なうえに、よく整備がされていて歩きやすく、オールシーズン楽しめる土の城なのである。

 なにせ、新横浜駅からJR横浜線でひと駅の小机駅を下りたら、徒歩10分かそこらという駅近優良物件なのだ。駅のすぐ西に見える丘が城跡だし、駅から城までの案内表示もしっかりしているので、迷う心配もない。服装も普段着とスニーカーで充分だ。

登り口には案内板とトイレがある。画面奥の竹林の中が城跡だ

 注意事項といったら、夏場はヤブ蚊が煩わしいので虫除けを忘れないこと。日産スタジアムが近いので、サッカーの試合のある日は駅周辺が混雑すること。駐車場がないので必ず公共交通機関を利用するとこ、くらいだろうか(城周辺は道が狭く路駐は絶対不可)。

 土の城入門にこれほど好適な城が、空堀の聖地なのであるが、そんな小机城にもちょっとした「問題」がある。城の歴史だ。

西ノ曲輪(本丸)の空堀。画面左手が西ノ曲輪の土塁