AI半導体の第2ラウンドはどうなる?

 ここまで、AI半導体の第1ラウンドの勝者が、エヌビディア、TSMC、SKハイニックスであることを論じてきた。AI半導体の競争は今後も続くが、第2ラウンドはどのような展開になるだろうか。

 まず、AI半導体については、決してエヌビディアは安泰ではない。というのは、クラウドメーカーのグーグル(Google)やアマゾン(Amazon)が、独自のAI半導体を設計し、そのAI半導体が搭載されたAIサーバーをデータセンターに導入し始めているからだ(図10)。

図10 AI半導体別のハイエンドAIサーバー(2023~2024年)
出所:DIGITIMES Research: Servers Report Database, 2024, ”Global annual server shipments, 2023-2024”
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 2024年の予測値では、エヌビディアのGPUが搭載されているAIサーバーが33.6万台であるのに対して、Googleが独自設計したAI半導体(Tensor Processing Unit、TPU)を搭載したAIサーバーが13.8万台になる見込みである。これは、エヌビディアのGPUが搭載されたAIサーバーの41%に相当する。

 つまり、エヌビディアにとっては、グーグルやアマゾンは、カスタマーでもあるが、ライバルになり始めたということだ。しかも手強いライバルである。

 一方、エヌビディアのGPUだけでなく、グーグルやアマゾンが設計したAI半導体も、すべてTSMCのCoWoSパッケージで製造されている。そして、今後、TSMCにとって代わるような半導体メーカーが出てくることは考えにくいため、TSMC一強の時代が続くかもしれない。

 さらに、広帯域メモリHBMにおいては、SKハイニックスの優位性は当分続くと考えられる。しかし、サムスンやマイクロンが黙っているはずもなく、いずれは3社の三つ巴の競争が展開されるだろう。

 最後に、上記のようなAI半導体の行方を分かりにくくしているのが、2025年1月20日に米大統領に返り咲くトランプ氏の政策である。第1次トランプ政権の時もそうだったが、トランプ氏の言動は読めない。どのような過激な対中政策を打ち出してくるか分からない。

 すでにトランプ氏は、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」のインタビューで7月10日、「台湾は我々から半導体ビジネスを奪った」と語ったという(BUSINESS INSIDER、7月25日)。また、トランプ氏は、バイデン政権が2022年に成立させた「CHIPS法」を厳しく非難しており、補助金や税額控除ではなく、関税によって米国内に半導体工場建設を促すべきだと主張している(日経クロステック、2024年11月7日)。

 何が起きるか分からない「トランプ・ショック」によって、AI半導体の第2ラウンドに大きな波紋をもたらすかもしれない。2025年、世界半導体業界はどうなるだろうか?

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