DHが広げる野球のすそ野
DHがセ、パ両リーグで取り入れられると、すそ野にも影響が出るだろう。
高校野球などにもDH制が広がれば、甲子園に出場する選手のレギュラーが1枠増える効果がある。野球人口の減少が深刻化する中、打撃が好きだが、守備が苦手だという少年野球の子どもにとっても、DHは新たなポジションとして「受け皿」を担うことも可能だ。
一方で、9人という野球の原点と伝統が失われるリスクもある。ただ、近代野球では、かつては先発完投が当たり前だった投手も、中継ぎ、抑えと分業制が進むことで戦術が進化を遂げてきた一面もある。
もしも、ナ・リーグがDH制を採用していなければ、大谷選手がドジャースに移籍しなかったかもしれず、少なくとも今季の歴史的な成績は残せていなかった。セがDHを導入することで、新たなスター選手を生み出す可能性も広がる。
大谷選手が証明したDHの価値を、セ・リーグの導入是非や日本球界の未来において、議論を深める材料に生かさない手はない。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。