憲法で「軍隊保持」を明言する主要国はあるのか
石破氏は国防軍の憲法明記にこだわるが、果たして世界の常識なのか。『新版世界憲法集』(岩波文庫)を参考に主要国の憲法を検証すると、どうやらそうではないらしい。
【アメリカ】
面白いことに憲法では軍隊保持を断言する文章は見当たらない。
ただし第1条(合衆国議会)の「権限」の項で、「戦争を宣言」「陸軍の徴募」「海軍の創設」「陸海軍の統制・規律の規則制定」「民兵の招集・編成」や、第2条(大統領)の「権限」の項で「陸海軍と合衆国の軍務に服す民兵の最高司令官」などがある。
合衆国憲法は1788年の制定だが、1776年の独立宣言から12年後のことで、現在の米州兵のルーツである民兵組織(ミリシア)や海兵隊は独立以前に旗揚げしているため、わざわざ憲法で明文化しなくても軍隊の存在は当然ということなのだろう。
【ドイツ】
日本と同じく第2次大戦で敗戦したドイツの憲法(基本法)を見ると、第87a条で「防衛のための軍隊の設置」「防衛以外の行為については、憲法で明文化されているものに限定して出動可能」、第12a条で「(兵役及び代役義務で)兵役義務を課せる」などと規定。
逆に同国の場合は「明文化されていない行為はNG」と適用に極めて厳格で、日本のように「陸海空軍その他の戦力」の不保持を謳いながら世界屈指の“軍事力”を有する自衛隊が存在するという矛盾はあり得ない。
【フランス】
同国の憲法にも軍隊保持を直接明示する文言は見当たらない。だが第15条「大統領は軍隊の長」、第34条(法律事項)「市民の身体や財産に対し国防のために課される負担に関する法律は議会が決議」「国防の一般組織は法律が一般原理を定める」といった項目で、やはり軍隊の存在は当然とのスタイルだ。
【韓国】
第5条で「国軍は国家の安全保障と国土防衛が使命」、第39条で「国民の兵役義務」、第60条で「宣戦布告や国軍の海外派遣について国会が同意権を有する」などを謳うが、憲法に軍隊保持を直接明示する文言はない。
【ロシア】
第59条で「兵役義務」、第71条で「連邦が国防・安全保障を管轄」、第87条で「連邦大統領が連邦軍の最高総司令官」を規定するが、憲法内に軍隊保持を明確に記す箇所はない。
【中国】
序言(前文)でまず、「中国人民及び中国人民解放軍は、帝国主義、覇権主義の侵略、破壊及び武力による挑発に戦勝し、国家の独立及び安全を護り、国防を増強した」と、軍隊の存在感と功績をアピール。
第29条で「国防」を述べるが、「国軍」ではなく「中華人民共和国の武装力は、人民に属する」と定める点が特色で、93条では「中央軍事委員会が全国の武装力を領導(指導)する」と明記する。
なお第1条で「中国の国体を労働者階級が領導し、人民民主独裁の社会主義国家である」と断言。つまり中国共産党の一党独裁で人民解放軍は厳密には国軍ではなく「共産党の軍隊」であることが分かる。
このように、主要国を見る限り憲法で軍隊保持を明言する国は意外と少数のようだ。
石破氏は改憲草案を発表した直後の2013年発行の鼎談集『国防軍とは何か』(幻冬舎)で、自らの改憲論・国防軍保有論の考えを事細かに説明している。憲法改正が必要な理由として、2つの欠落「1つ目は国家の非常事態に関する規定、もう1つは軍隊についての規定」と指摘する。
だが仮に今後石破氏が「世界では憲法に軍隊保持を記載するのが常識」と断言した場合、それは甚だ疑問だ。