国防軍に置くという「審判所」は軍法会議とどこが違うのか
自衛隊を国防軍へと“格上げ”した場合、避けて通れないのが「軍法会議」だろう。いい悪いは別にして、これまで自衛隊は「戦わない」のが当たり前で、世界でも稀有な「国家が保有する武装組織」だった。
その結果、万が一有事となり攻めて来た敵を射殺したり、敵弾を避けるため一般道の信号を無視したり、陣地構築のため無断で家屋を破壊した場合、日本は世界に冠たる「法治国家」なので、それぞれ「殺人罪」「道路交通法」「器物損壊・不法侵入」が問われる恐れがあった。
2000年代初めのいわゆる有事法制の成立で、さすがにこうした世界の非常識はだいぶ改善されたが、それでも殺りくが常識の戦場という非日常の環境下で、軍隊が戦闘力を保持し隊内秩序を維持するには、平時では違法となる行為が免除される特例とともに、一般の刑法とは別系統の厳格な法体系と裁判制度、いわゆる「軍法会議」が必須という考えが世界の主流だ。
この部分について改憲草案では第9条の2の5項で、「国防軍に審判所を置く」と新たに明記。自民党の公式Q&Aでも「軍事機密保護」と「迅速さ」のために不可欠で、裁判官や検察、弁護側も主に軍人から選ばれるとする。
ただ自民党は「審判所はいわゆる軍法会議のこと」と断言しながら、なぜ改憲草案では「審判所」と表記するのだろうか。恐らくは審判所の方がソフトなイメージだと考えたのではないだろうか。
現憲法の第76条2項にある「特別裁判所は、これを設置できない」については、改憲草案でも「特別裁判所は、設置することができない」と、一見踏襲した雰囲気を醸し出すが、よく見ると改憲草案では「これを」の一語が削除されており、よほど読み込まなければ気付かない。
軍法会議は一般の裁判体系とは別枠の裁判で「特別裁判所」なのは明らか。だが仮に改憲草案で第76条2項部分を削った場合、「軍国主義回帰だ」と国民からの反発を恐れたのかもしれない。
それでも現行憲法の文言に全く手を加えずそっくりそのまま改憲草案に移植すると、「軍人は審判所で裁く」と宣言しながら、一方で「特別裁判所はダメ」では矛盾が過ぎる。
そこで、「これを」をさりげなく削除することで、「いわゆる特別裁判所という権能を有する機関全部」というニュアンスではなく、「あくまでも『特別裁判所』というそのものずばりの名称の機関は作らないが、極めて類似の『審判所』は名前が違うので合法」との答弁でごまかす方策なのだろうか。
一般国民には難解な行政文書、「霞が関文学」に一脈通じる禅問答的な内容だが、後ろめたさからごまかしているのなら大問題だろう。