トランプ氏から「在日米軍の給与も全部支払え」と迫られる危険性も
トランプ氏は石破氏が唱える国防軍化に対し、基本的には大賛成というのが大方の識者の見立てだ。ただし要注意は、トランプ氏の性格は「過去の経緯や歴史、取り決めなどは勉強せず、直感で判断しがち」「理論理屈の議論は嫌い」と言われる点だ。
仮に今後石破氏がトランプ氏との会談で国防軍を切り出した場合、「ゲル(石破氏の幼少時のあだ名)、それは名案だ。どんどん進めてくれ」と賛同するものの、それには憲法改正が必要で、さらに国防軍設立の暁には日米地位協定も見直し、在日米軍基地も縮小してほしいなどと切り出せば、表情を一変させる可能性が高い。
中国の台頭を警戒するトランプ氏にとって、軍事的に封じ込められる最大拠点は、在日米軍基地となる。国防軍の狙いが「在日米軍基地縮小」だとトランプ氏が悟れば、逆鱗に触れるかもしれない。
「日本の繁栄は誰のおかげだ。在日米軍基地の縮小など論外で、むしろ在日米軍将兵の給与も100%日本が肩代わりすべき。さもなければ24時間以内に在日米軍を全部撤退する」と恫喝し、ディール(取引)を迫ることもあり得る。
過去には安倍晋三元首相との会談で「日本は金持ちの国だ」と在日米軍の駐留経費の大幅増を要求したとの報道もある。事実、第1次トランプ政権時代に大統領補佐官を務めたボルトン氏は2020年に著した回顧録で、トランプ氏が日本に対し在日米軍駐留経費(思いやり予算)として年間約80億ドル(当時換算で9000億円弱)の負担を迫ったと暴露している。
2024年度の思いやり予算(2021年に同盟強靱化予算に改称)約2100億円と比べても驚きの額で、国防軍に回す防衛費アップどころか急膨張する在日米軍支援金で財政逼迫ではやぶ蛇となる。
今後石破氏が長期政権を担うか短命に終わるかは断言できないが、少なくともトランプ氏が大統領任期中の4年間は「日米地位協定」「国防軍」「憲法改正」といったフレーズをご法度とした方が無難だろう。
トランプ氏が大統領選の勝利宣言を行った直後、石破氏はさっそく電話でトランプ氏に祝意を伝え5分ほど会談。「非常にフレンドリーな感じで、本音で話せる印象だ」と、ほっとひと安心の様子。
だが、政権基盤が盤石でカリスマ性を備える強いリーダーとゴルフが大好きなトランプ氏に対し、安倍氏は世界の首脳の誰よりも早くトランプ・タワーに赴き、さらに名門・霞ケ関カンツリー倶楽部(埼玉県)での接待ゴルフでもてなしトランプ氏の心をわしづかみにした。
この成功例を参考に、「トランプ詣で」に臨む各国首脳はこぞって「右手にゴルフクラブ、左手にハンバーガー」でトランプ・タワーに訪れるはずで、石破氏がそれをまねても全く目立たず意味がない。
そこで兵器プラモデル好きの石破氏だからこそ可能な“奇策”として、「トランプの名を冠した空母の模型をサプライズでプレゼントするのでは?」とも一部でささやかれている。政権基盤も弱く、カリスマ性もなく、ゴルフも趣味ではない石破氏の「トランプ対策」にも注目したい。
【深川孝行(ふかがわ・たかゆき)】
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。