5.内外から信頼されたレーガン大統領

その特徴はインテグリティ(integrity)

 戦後の米国の政治においてこうした分断を起こさず、広く国民全体から信頼された政治家の代表はロナルド・レーガン大統領である。

 米国政府内の中央情報局(CIA)、国務省、国防総省等10以上の部門はそれぞれが独自の情報収集組織を持っており、それぞれの組織は自分たちの持つ機密情報を政府内の他の組織と共有しないのが常である。

 それがレーガン政権時代のみ相互に情報を共有したと聞く。

 それは全部門がレーガン大統領の政策を支えるために一致団結しようとしたからだった。

 このように米国政府内でもレーガン大統領の指導力は群を抜いていた。

 国民からの支持率を見ても退任時ですら60%を上回っていたほか、2000年以降の世論調査を見ても戦後の大統領の中で最も偉大な大統領であると位置づけられている。

 そのレーガン政権に参加し、レーガン大統領の人物をよく知る国際政治学者にレーガン大統領の特徴を尋ねた。

 その答えは人格の「integrity(正直、誠実)」であり、それを支えていたのはキリスト教信仰ということだった。

 ギャラップ社の調査によれば、米国社会では、人口に占めるプロテスタントの割合が1955年の71%から、2014~17年には47%に低下した。

 この間、カトリックの割合は24%から22%にわずかに低下しただけである。ただし、カトリックの教会出席率(1週間に1度教会に行く人の割合)は1955年の75%から2014~17年には39%にまで低下した(プロテスタントは40%代前半でほぼ横ばい)。

 前出の国際政治学者はこれが米国の精神基盤に大きく影響していると解説してくれた。

 宗教の共通点は絶対的存在を意識することである。

 心の中で絶対的存在を意識すれば、謙虚な姿勢になる。それが各自の内省のベースとなり、自分に対して正直、誠実になる。

 その姿勢がベースとなって自分の私心を理性でコントロールできるようになり、利他の理念を自分自身の行動指針とするよう促す効果が生じる。

 そうした人物がリーダーとなれば、周囲の人々はその人の為に何か役に立ちたいと思うようになる。その典型例がレーガン大統領だったと考えられる。

 レーガン大統領を信頼する人々の範囲は米国内にとどまらない。

 ソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長や日本の中曽根康弘首相もレーガン大統領を信頼した。

 いま世界の主要国の政治家を見回しても、レーガン大統領のように広く国内外から人望を集める人物は見当たらない。

 それが国内社会や世界の分断を食い止めることができない状況を招いている。その要因はリーダーのintegrityの不足にあるのではないかと前出の国際政治学者は指摘する。