中国に対する関税率の大幅引き上げを発表する米国のジョー・バイデン大統領(5月14日ホワイトハウスで、写真:ロイター/アフロ)

1. 米国政府の対中追加関税引き上げの中身

 6月14日、米国政府が中国に対して追加関税引き上げを発表した。

 その主な内容は、中国製の電気自動車(EV)に対する輸入関税を現行の25%から100%に引き上げるほか、半導体、太陽光パネルは25%から50%へ、その他の車載用電池、鉄鋼・アルミ等は25%にまで関税を引き上げるというものである。

 不公正な取引慣行に対する制裁措置を定めた米国の国内法である「通商法301条」に基づく措置として実施された。

 これに対して中国は「通商法301条」に基づく制裁措置が世界貿易機関(WTO)のルールに違反するものであると批判。

「自国の権益を守るために断固した措置を採る」と発表するともに、追加関税の即時撤廃を要求した。

 日本のメディアも、「米国内で中国製EVはほとんど流通しておらず、追加関税の根拠はあいまいだ。WTOのルールでは今回のように『相殺措置』として追加的な関税を課すには、国内産業が実質的な損害を受けていると立証する必要がある」(日本経済新聞、5月14日)と今回の米国の発表を批判的に論評している。

2. 通商法301条に基づく経済制裁の問題点

 通商法301条は米国の国内法である。

 各国が自国内で定めたルールを外国に対して適用すれば、相手国もそれに対して報復措置を実施し、対立がエスカレートして保護主義的な貿易戦争に陥るリスクが高まる。

 自由貿易が阻害されれば、各国が自由に貿易することができなくなり、世界全体の経済発展にとって大きな障害となる。

 特に自国内で生産できる品目が限られている中小国家が受けるダメージが大きい。

 かつて第1次、第2次世界大戦の引き金となった要因の一つが保護主義の激化に伴う経済のブロック化だった。

 第2次世界大戦後、二度とこのような世界大戦を招くことがないように各国が協力して推進したのが自由貿易体制の構築だった。

 1947年に世界各国が署名した「関税および貿易に関する一般協定」(General Agreement on Tariffs and Trade)、略称GATT(ガット)により、国際貿易の自由化に向けた世界共通のルールが初めて設定された。

 その理念が継承されて1995年には世界貿易機関(WTO、World Trade Organization)が設立された。

 各国が保護主義による貿易摩擦を激化させることがないよう、自国利益を守るために自由貿易を制限する場合には、まずWTOに提訴し、その審査を経て相手国の保護貿易的行動によって被害が生じたことが認定されれば、制裁措置を実施することが認められる。

 それが国際的に合意された本来の手続きである。

 しかし、今回の米国の対中経済制裁はそうした手続きを踏まえず、米国の国内法に基づいて一方的に経済制裁を発動したものである。

 これが各国で合意したルールに反しているのは明らかである。

 中国が法治を重視するのであれば、WTOに提訴し、米国の採った措置に対してWTOが下す判断を待ち、その上で適切な対抗措置を講じるべきである。

 これまで中国自身も米国の経済制裁に対して、WTOによる判断を待たずに、米国に対して報復制裁を実施してきた。

 その内容は米国が中国に対して実施する厳しい制裁の中身に比べてマイルドであるが、国際的に合意されたルール上の手続きを踏まえていないという点では米国政府の行動と同様の問題がある。