3.米中対立も煽るエコチェンバー現象

 エコチェンバー現象が見られるのは民主党と共和党を分断する国内の対立軸だけに限られることではない。

 ワシントンD.C.における中国理解もエコチェンバー現象によって歪められている。

 例えば、中国は2027年までに台湾を武力統一するという見方が昨年までワシントンD.C.での常識として共有されていた。

 米国の著名な中国専門家の大半はその可能性は低いと考えている。

 そもそも台湾の一般庶民の8割以上が当面は中国からの独立を求めず、現状維持を希望している。

 台湾が独立を宣言しないにもかかわらず、武力統一を強行すれば世界の中で中国が孤立することは中国側も十分理解している。

 武力統一を強行すれば、日米欧の主要企業が中国市場から撤退するか投資姿勢を抜本的に見直すことになる。

 そうなれば、外資依存度の高い中国経済は長期にわたり厳しい停滞を余儀なくされる。

 2021年末頃に高度成長期の終焉を迎えて経済の不安定局面に陥り、経済政策運営に苦慮している現状において、外資企業が投資を大幅に縮小すれば中国経済にとっては致命傷になる。

 それは共産党に対する国民からの信頼そのものに影響する。

 そうした状況を総合的に判断すれば、台湾が独立を宣言しない限り、中国が武力統一に動く可能性は極めて低いと考えられている。

 しかし、ワシントンD.C.ではそうした客観的な見方に耳を傾ける人は極めて少数に限られており、公の場でそうした意見を述べても無視されるか、発言の機会を与えられなくなるという状態だった。

 その結果、昨年はエコチェンバー効果によりワシントンD.C.で対中強硬論が過熱し、米中武力衝突のリスクが高まったため、そのリスクを抑制する必要に迫られた。

 昨年11月の米中首脳会談を機に、バイデン政権はハイレベルの米中対話を通じたコミュニケーションの回復を図っている。

 その政策方針に沿う形で、中国を挑発するような言動をある程度抑制するようになり、2027年台湾武力統一を前提とした議論が下火になっている。