加盟国が戦争になったとき、日本は強制的に派兵しなければならないのか

「アジア版NATO」は、これまで目立たない存在だったが、2022年のウクライナ侵略を契機に、俄然注目を集めている。

 石破氏も指摘するように、国連の機能不全どころか、本来は侵略行為を止める側であるはずの常任理事国のロシア自らが侵略行為に走っているのが実情だ。

 しかもウクライナはNATO未加盟であるため、欧米は集団安全保障に基づく武力支援をウクライナに行う“義務”もない。裏を返せば、集団安全保障で自動的に第三国が参戦してくるという抑止力が、ロシアには全く働かなかった。

 これらを踏まえ、インド太平洋に目を向けると、ロシアと同様に権威・覇権主義の中国が急速に軍事力を増強している。

 特に海軍力の拡大を背景に海洋進出を展開し、南シナ海や東シナ海など同国沿岸部にとどまらず、最近では南太平洋や北極海、インド洋でも軍事プレゼンス(存在感)を強めている。

 手遅れにならないうちに、インド太平洋で乱立する民主主義国同士の軍事・安保条約・協定をひとまとめにし、集団的安全保障をはっきりと謳い、中国への強力な抑止力を構築するのがアジア版NATOの本懐のようである。

 そこで気になるのが、「アジア版NATOに日本が加盟し、同じ加盟国の英仏が欧州での戦争に参戦した場合、英仏を助太刀するため日本は強制的に派兵しなければならないのか」という心配だろう。

 これに関しては、条約の適用範囲を厳格に定めるのが一般的で、例えば「太平洋およびインド洋」と明確に線引きされるはずだ。

 本家NATOでも第6条で「武力攻撃の対象」と規定し、「欧州もしくは北米におけるいずれかの締約国の領域、フランス領アルジェリアの諸県(1962年の独立まで)、トルコ領域、北回帰線(北緯23度26分)以北の北大西洋にある締約国の管轄下にある島」とする。

 例えば、南大西洋の孤島でイギリスが実行支配するフォークランド諸島が、1982年にアルゼンチンの軍事侵攻に遭い一時占領(フォークランド/マルビナス紛争)され、イギリスはNATO加盟国に集団安全保障に基づく参戦を要請した。しかし、アメリカをはじめ全加盟国は「適用範囲外」としてこれを拒否している。