ウクライナ軍のウグレダル撤退に隠された「本当の狙い」
2024年10月2日、国内外のメディアが一斉に「ウグレダルからウクライナ軍が撤退」と報じた。
この町はウクライナ東部ドネツク州の西側にある要衝で、地平線まで広がる小麦・トウモロコシ畑の真ん中にぽつんと造られた人工都市。1km四方にわたり鉄筋コンクリート製の中層アパートがひしめく。
2022年2月に全面侵略戦争が勃発して以来、ロシア軍はウグレダル攻略に何度も挑むが、立てこもるウクライナ軍の防御は鉄壁でことごとく失敗。このため“難攻不落要塞”と呼ばれたが、膨大な死傷者を出しつつもついに2年8カ月かけて制圧した。
「豊富な弾薬と犠牲を厭わない人海戦術で押しまくる非情なロシア軍の戦法に、さすがのウクライナ軍も諦めるしかなかった」との見方が大勢で、ウクライナのゼレンスキー大統領も「大事なのは兵士の生命で、正しい決定だ」と話した。
だが、本当にロシア軍の猛攻に抗し切れないから、仕方なく撤退したのだろうか。
ゼレンスキー氏やウクライナ軍のこれまでの数々の「奇策」を考えると、本当の狙いは「重要拠点の死守」ではなく、むしろ重要拠点を“餌”にロシア軍を長期間くぎ付けにして、可能な限り出血・消耗を強いることにあったのではないか。
つまり「ロシア将兵の死傷者増大」「兵站(補給、後方支援)への打撃」の二段構えで、相手をじわじわと疲弊させ、さらにロシア国内の厭戦気分も盛り上げて、ロシアのプーチン大統領に侵略行為を諦めさせることが、ゼレンスキー氏の本心ではないだろうか。
市街地での籠城戦は、自軍にも相応の損害が出るものの、包囲されない限り防御側が格段に有利で、攻撃側は防御側の最低3倍の兵力が必要というのが軍事の常識である。
ロシア軍に無謀な突撃を続けさせて累々たる屍の山を築き、タイミングを見計らって撤収、後方の次なる拠点都市に移動して再び籠城――軍事専門用語でいう「遅滞作戦」だ。実際、激戦の東部ドネツク戦線の状況を見ると、このパターンが垣間見える。
ロシア軍はまずドネツク州の中心都市ドネツク(2014年以来親ロシア派が占拠)の北約70kmに位置するバフムトに対し、開戦直後の2022年5月から攻撃。だが完全制圧したのは2023年5月で実に丸1年を要している。
次にドネツクの北約10kmのアウディーイウカに狙いを定め、9カ月後の2024年2月に占領。そして今回のウグレダルに矛先を変えるが、同様にアウディーイウカの制圧から8カ月もかかっている。
ロシア軍の次の主目標は、ドネツク北西約50km、ウグレダルの北約60kmにある小都市ポクロウシクで、主要国道6本が集まる交通の要衝だ。