「兵士1人当たり1日150kg」の補給物資をいかに前線まで運ぶか

 兵站への打撃に関しては、「ロシア侵略軍の陸上輸送手段や輸送ルートが脆弱なため、前線兵力が膨張し、また無理な進撃で戦線が伸び切ると、兵站が追いつかなくなる」との分析もある。

『軍事学入門』(防衛大学校・防衛学研究会編)などによれば、完全に機械化された現代の戦闘師団(兵力1万5000人程度)が必要とする補給物資量は、ロシア軍で最大2200トン/日、ロシア兵1人当たり150kg弱となる。内訳は戦車、装甲車、軍用トラックなど車両用燃料が6割を占め、次いで弾薬2割、水・食糧1割弱、各種予備パーツ、医薬品などとなる。

 この推計に基づけば、ポクロウシク方面に展開するロシア軍兵力を仮に推定3万人として1日に必要な補給量は4400トンとなる。

森林地帯でウクライナ軍の動向を探るロシア陸軍偵察部隊森林地帯でウクライナ軍の動向を探るロシア陸軍偵察部隊(写真:ロシア国防省サイトより)

 ロシア本土や、2022年にロシアが占領したアゾフ海に面する港町・マリウポリからポクロウシクまでは直線で約120km、道のりでは2倍の200km程度ある。

 4400トンの物資を陸上輸送するには理論上10トントラック440台が必要となるが、実際の物資は重量の割にかさばるのが常識で、現実には10トントラックに半分の5トンを積載できるのがやっとだろう。つまり必要な台数は約900台となるが、30トン積載のトレーラー(これも実際は15トン積載で満杯)も投入されるはずで、これらを総合すれば約500台/日といったところだろう。

ウクライナに展開するロシア侵略軍の兵站はトラックが頼りウクライナに展開するロシア侵略軍の兵站はトラックが頼り(写真:ロシア国防省サイトより)

 戦場での混乱や渋滞、事故などを勘案すると、平均移動速度は時速30km程度、200kmの行程を休憩なしで走り続けて7時間。荷物の積み降ろし時間や運転手の休息、トラックの故障・修理などを考えれば、1日に1往復が精いっぱいだろう。

 加えてウクライナ軍は道路・橋梁破壊を狙った砲爆撃や、ドローンによるコンボイ(トラック輸送隊)の狙い撃ちを執拗に行っており、これを回避するため、迂回による遅配も相当な規模になると推測される。

 さらにロシア製トラックの低稼働率も加味すれば、2倍の1000台程度を用意しなければならないと見るのが現実的だろう。

 これはかなりの負担で、ロシアがこの戦争に投入する兵力が50~60万人と見られることから、単純計算すると侵略軍を支えるために必要なトラックの台数はざっと2万台となる。ドライバーの手当てや燃料の手配を考えるだけでも気が遠くなりそうだ。

「ロシア軍が得意とする貨物鉄道の活用で、大量陸上輸送は可能」との指摘もある。確かに世界最大の国土で道路整備も追いつかないロシアは、旧ソ連時代から兵站の大半を鉄道に依存する。だが、あくまでも自国内だからできる話で、外国の占領地、つまり敵地で鉄道に頼れば、かえって兵站上の重大な“アキレス腱”となる。

工兵部隊が緊急に架けた架設鉄橋で川を渡るロシア軍の軍用貨物列車。鉄道は前線では格好の標的となる工兵部隊が緊急に架けた架設鉄橋で川を渡るロシア軍の軍用貨物列車。鉄道は前線では格好の標的となる(写真:ロシア国防省サイトより)

 鉄道は大量輸送できる半面、線路は砲爆撃や敵のゲリラ(パルチザン)や工作員の格好の的となる。しかも貨物列車は立ち往生したまま退避できず、第二波攻撃で編成が全損ということも珍しくない。リスク回避のためにもトラックでの分散輸送が必須となる。

 現にウクライナ戦争においてロシア軍の兵站の主軸はトラックで、前線から遠く離れた比較的安全な拠点と本国との間に限り、鉄道を利用しているという。

 戦線を拡大すれば自動的に兵站も拡大しなければならず、もともと補給・後方支援を重視しているとは言えないロシア軍にとって、かなりの重荷であることは間違いない。