新たな危険を伴う可能性が高いロシアの「ポクロウシク占領」

 突出した前線部隊に対する“兵糧攻め”は、その部隊の規模が大きいほど、必要とする補給物資量が多くなるため効果的で、同時に味方本拠地との距離が離れ、兵站線が伸びれば伸びるほどダメージは大きい。

 補給無視で南方の島々に大軍を送り込み次々に占領したのはいいが、伸び切った補給路を連合軍に狙い撃ちにされ(貨物船を撃沈)、最後は将兵が飢餓に陥り大敗した太平洋戦争時の日本軍を例に挙げるまでもない。

 さらにポクロウシク占領には、ロシアにとって別の「新たな危険」を伴うのではないかとの指摘もある。

 地図を見れば明らかだが、ウクライナ東部のロシア占領地域は、まるでロシア本国とウクライナとの間に“緩衝地帯”を設けるように両国国境に沿って帯状に広がり、その幅はまるで決められているかのように、ほぼ100~120kmで統一されている。

 正確な理由は不明だが、ロシア本土内でにらみを利かす長距離地対空ミサイル(S-300、S-400)や、同様にロシア国内上空で滞空する戦闘機から発射する長距離空対空ミサイルが、余裕を持って防空可能な射程距離の限界が恐らく100~120kmと推測できる。

 ウクライナは国産の長距離ミサイルやドローンによるロシア本土攻撃を展開するが、アメリカを始めNATO各国は自国製兵器によるロシア本土攻撃を認めていない。このためロシア側も「自国本土からの長射程攻撃なら安全だ」という理屈が成り立つのだろう。

 またもう1つ考えられる理由は「兵站」で、ロシア側は本土から前線間100~120kmが1つの限界線だと考えているのかもしれない。

 ポクロウシク市街地東端とロシア国境との距離は厳密には118kmで、ウクライナ東部のロシア占領地の中で最も本土から離れた、比較的規模の大きな都市となる。ロシア軍がこの町を攻略した場合、防空・兵站の両面で深刻な脆弱性を露呈するかもしれない。