前線のロシア将兵を「弾切れ、油切れ、空腹」にする戦法

 東部ドネツク戦線で西に進軍するロシア軍は、ウグレダル攻略後、ドネツク方面から攻勢を強め、今年10月上旬の段階でポクロウシク中心部から約10kmまで迫っている。恐らくはドネツクの南西約50kmのウグレダルと、同北部約70kmのバフムトに布陣する友軍と呼応して、3方面からポクロウシクを包囲する計画なのだろう。

 現在ドネツクから出陣のロシア軍は、相変わらず人海戦術の攻撃でゴリ押ししている模様で、急ぐあまりに「牛の舌」のように戦線は突出した格好となっている。このままでは牛の舌の両脇に回り込んだウクライナ軍に挟み撃ちされ、最悪の場合主力部隊が包囲・壊滅する危険性すらある。

カムフラージュでウクライナ軍を待ち伏せるロシア陸軍の歩兵戦闘車カムフラージュでウクライナ軍を待ち伏せるロシア陸軍の歩兵戦闘車(写真:ロシア国防省サイトより)

 またポクロウシク~ドネツク間は小麦・トウモロコシ畑が延々と続く大地だが、両都市を直結する主要舗装道路は片側1車線の国道E50/M04線1本だけで、ほかに狭い側道数本と毛細血管のような未舗装の農道が広がるが、とてもメインの補給路としては使えそうにない。仮に近い将来、ロシア軍が多大な犠牲を払ってこの町を占領したとした場合、その後の兵站面で相当苦労しそうだ。

 確かにポクロウシクは交通の要衝で、主要国道が放射状に6本ほど各方面に延びる。だが味方の前線に通じる道路は前出のドネツクに直結する国道ほか計3本。その他枝線や未舗装農道を“あみだくじ”のように走れば後方までたどり着けるが、効率的ではなくあくまでも緊急時の使用に限られる。

 つまりウクライナ軍はボクロウシクのロシア軍を苦しめる作戦として、市街地よりむしろ背後にある兵站線への攻撃に力点を置く可能性も高い。ドネツクなど後方のロシア側拠点と直結の主要道路を徹底的に叩いて補給線を寸断、前線の将兵を「弾切れ、油切れ、空腹」の状態にして士気低下を図る戦法だ。

 ウクライナ軍はNATOから供与された米製のF-16戦闘機を使い、数十km後方から地雷収納の精密誘導爆弾を投下。道路周辺に地雷をばらまいて通行不能にしたり、ドローンを飛ばしてコンボイを発見したら、100km以上後方からクラスター爆弾搭載型ATACMS(戦術地対地ミサイル)を発射。無数の子爆弾で数十台のトラックの車列を一瞬でスクラップにするなどして、補給遮断を徹底する戦法も効果的だ。

 周辺に広がる小麦・トウモロコシ畑は、日本の水田とは異なり地盤が固いため、主要道路が破壊されたとしても、トラックが畑を踏破することはそう難しくないが、それでも輸送速度を大幅に低下させることができる。

 また特にクライナ東部地方の大平原は、春と秋に降雨や雪解けによるラスプティツァ(ぬかるみ期)が起こり、舗装路以外の通行はキャタピラ(履帯)を持つ戦車でも難しいほど。実際第2次大戦の独ソ戦(バルバロッサ作戦)でこの地に進撃したドイツ戦車(機甲)部隊がラスプティツァに苦戦した。

ロシア軍のT-72戦車。戦車は想像以上に燃料を費やすため、燃料の前線輸送は極めて重要ロシア軍のT-72戦車。戦車は想像以上に燃料を費やすため、燃料の前線輸送は極めて重要(写真:ロシア国防省サイトより)