インド太平洋を舞台に乱立する“親欧米軍事同盟”を一本化

 石破氏は以前から「アジア版NATO」の必要性を訴えてきたが、具体的なイメージはどういうものなのか。総裁就任直後のNHKの番組で、ロシアのウクライナ侵略を念頭にこう強調した。

「国連が機能しないのは、(安全保障理事会で拒否権を持つ)常任理事国が侵略するという想定外の事態が起こったから。集団安全保障を義務とし、お互いが守り合う国連のシステムが機能しないとすれば、欧州には(これをカバーする)NATOがあるが、アジアにはない。

 しかし、いきなりは創設できないので、日米(安全保障条約)、米韓(相互防衛条約)など(既存の軍事条約)を有機的に結び付けることはできないかと考える。『今日のウクライナは明日のアジア』と言うだけでは無責任ではないか」

 昨今ますます懸念される中国習近平体制の台湾武力統一も強烈に意識したものだろう。報道などをまとめると、「アジア版NATO」はあくまでも国連の機能不全を念頭に、「集団安全保障」を基本にした“軍事条約”と言っていいだろう。

 日米安保条約や米韓相互防衛条約、米比相互防衛条約、ANZUS(アンザス/豪・ニュージーランド・米国間の太平洋安全保障条約)、AUKUS(オーカス/米英豪3カ国軍事同盟)、QUAD(クアッド/日米豪印戦略対話)など、インド太平洋にある既存の親欧米諸国の軍事・安全保障関連条約や協定をたたき台にするらしい。

日豪の防衛協力も年々深化。共同作戦の訓練で、攻撃目標を確認し合う陸上自衛隊と豪陸軍の幹部日豪の防衛協力も年々深化。共同作戦の訓練で、攻撃目標を確認し合う陸上自衛隊(左)と豪陸軍の幹部(写真:豪州国防省ウェブサイトより)

 自転車の「ハブ」(車軸)のごとくアメリカを据え、そこからスポークのようにつながっていた個々の軍事・安保条約を多角的・有機的につなげることで、これまでの「点」「線」の状態を、「面」へと拡大。機能不全の国連に代わる集団安全保障体制の“保険”にしようという発想だ。

 加盟国としては、日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、豪州、ニュージーランド、韓国、フィリピン、インドなどが想定される。さらには、英豪、ニュージーランド、シンガポール、マレーシアが加盟の防衛協定「5カ国防衛取極」(FPDA)も合流する可能性を指摘する向きもある。

クアッドの軍事的親密度も増している。2023年豪州近海での海軍演習に参加した日米豪印4カ国の艦艇 クアッドの軍事的親密度も増している。2023年豪州近海での海軍演習に参加した日米豪印4カ国の艦艇(写真:豪州国防省ウェブサイトより)