誤解してはいけない「集団安全保障」と「集団的自衛権」の違い
「集団安全保障」「集団的自衛権」は一見似ているが、中身はだいぶ異なる。
「集団安全保障」とは、条約加盟国の1国が国家やそれに準じる組織から武力攻撃を受けた場合、全加盟国が攻撃を受けた加盟国に対し、軍事力の行使を含めた支援を即座に行う“義務”があることで、国連やNATOがその代表例である。
これに対し「集団的自衛権」は文字どおり“権利”で、友好国が攻撃された時、「盟友」として武力で助太刀しても構わない、ということである。外国からの攻撃に対し自国が武力で抵抗できる「個別的自衛権」と同様、国連憲章で認められた独立国の権利だ。
換言すれば、「集団的自衛権」の場合、友好国を助けるため何が何でも派兵しなければならない、というものではなく、このあたりを誤解している人は少なくない。石破氏も2つの違いを事あるごとに力説する。
NATOの条約文には第5条で「締約国(加盟国)への武力攻撃は全締約国への攻撃とみなし、兵力使用を含む必要な行動を直ちに取り攻撃されている締結国を直ちに援助する」と定めている。この「援助する」がポイントで、「援助できる」という表現でない点が注目だ。
一方の東側陣営も軍事同盟「ワルシャワ条約機構(WTO)」を旗揚げして対抗。欧州を舞台に両陣営は核兵器をチラつかせつつ軍拡競争を続けた。俗に言う「東西冷戦」である。
1989年に「ベルリンの壁」が崩壊し、約40年間続いた冷戦は終焉。全面戦争=人類滅亡の危機は何度かあったものの、皮肉にも両陣営は軍事的均衡を図ることで平和維持を実現している。
結果論だが、少なくとも欧州平原で東西両陣営が戦車戦を演じた例など一度もない。その意味ではNATOは北大西洋地域の平和維持に貢献したと言える。
やはり肝はNATO加盟国による「集団安全保障」の部分だ。人口約40万人弱で軍隊を持たないアイスランドや、ロシアと国境を接しそれぞれ人口100万~200万人、総兵力1万人前後のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に対して万が一侵略を企てれば、世界最強の軍隊を持つアメリカをはじめ、英仏独伊など主要先進国から軍事的猛反撃を受けることになる。
この「抑止力」は大きく、いくら軍事大国のロシアだとしても、さすがにその愚は犯さないはずだ。逆に「バルト三国がNATO未加盟なら、今頃ウクライナの二の舞いになっていたかもしれない」というのが、世界の軍事・外交専門家の一致した見立てだ。