日本がアフリカへのワクチン提供で最大の貢献

 今後、世界各国は、アフリカでの対策、アフリカからの流入対策、国内の清浄化を目指す必要がある。課題は山積だ。

 一部を挙げると、アフリカでは、コンゴ民主共和国を中心にワクチンも重要になる。そこで最大の貢献しているのが日本だ。

 ACDCによると、日本が300万回分のワクチンを提供する。明治製菓ファルマのグループ会社であるKMバイオロジクスが擁するワクチンだ。現在のところ、この日本による供給量はデンマークのBavarian Nordicの50万回分を上回る。これだけの数があっても十分とはいえないだろうが、ワクチン接種は必須の情勢だ。

 アフリカでは、検査体制を含め、医療資源が乏しく、感染者を見つけ出すところから困難な状況にある。

 しかも、蔓延する感染症はエムポックスだけではない。エムポックスはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者では重症化しやすいとされるが、厚生労働省検疫所のデータによれば、コンゴ民主共和国のHIV有病率は約1%、セックスワーカーに限ると7.5%に達している。

 このほかにも複数の感染症が流行しており、それらへの対応も含めると、アフリカでのエムポックスの征圧は長期の対策が必要であると予想される。

 各国は水際対策を一層強化する必要がある。従来はクレード2を警戒すればよかったが、1bが流入しないか監視する必要があり、難易度は上がる。検査体制の拡充が課題の一つだ。

 現在のところ、アフリカ外で1bが広がっているわけではないが、万一広がれば、感染経路にも注意する必要がある。

 クレード2は男性同性愛者間で広がったが、クレード1bは異性間でも広がっている。性産業は異性間の方が一般的であり、1bが性産業に入り込めば、急拡大の可能性もある。そうなると、国内でもワクチン接種を検討する必要が出てくるかもしれない。

 感染経路については不明点もあり、接触感染が中心とされるが、飛沫感染の可能性についても慎重に検討する必要がある。1bの脅威は当面、続くと予想される。

【参考文献】
エムポックス急拡大の背景に「強毒型1b」と「売買春」、ゲイからヘテロに感染が広がり始めた意味(JBpress)
野放図なセックスが最大のリスク、世界最大の“性地”でエムポックス1bが確認された衝撃(JBpress)
India reports imported clade 1b mpox case
Veena George
Special Briefing on Mpox Outbreak in Africa | Sept. 19, 2024(ACDC)
エムポックスとは(国立感染症研究所)
2022-24 Mpox (Monkeypox) Outbreak:Global Trends

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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