小泉進次郎氏は解雇規制の緩和に意欲を見せている(写真:アフロ)

 自民党の総裁選が9月27日に控えるなか、解雇規制の見直しが争点の1つとなっています。河野太郎デジタル相が解雇の金銭補償の導入について言及したほか、小泉進次郎元環境相も解雇規制の緩和に意欲を見せています。一方、小林鷹之前経済安全保障相は「働く人々の不安をあおりかねず、格差を固定・拡大しかねない」と反論。賛否両論が巻き起こっています。

 こうした自民党総裁選での議論について、神戸大学大学院法学研究科の大内伸哉教授は「解雇の問題の本質的なところがわかっておられず、議論を不明瞭にしている」と指摘。そのうえで、「終身雇用を前提とした日本型雇用システムの変化やデジタル化の波の中で、解雇の金銭解決は労働者の保護にとっても必要だ」と話します。解雇規制の見直しが労働者に及ぼす影響など、労働法や労働政策が専門の大内氏に聞きました。

(河端 里咲:フリーランス記者)

曖昧な解雇のルール、裁判官任せの限界

──自民党の総裁選の争点の一つに解雇規制の見直しが上がっています。どう見ていますか。

大内伸哉・神戸大学大学院法学研究科教授:河野太郎氏が金銭解決を含めた解雇規制の見直しに言及した後、小泉進次郎氏が「解雇規制の緩和」を提案し、批判を受けて今はややトーンダウンしている印象を受けます。

 解雇ルールのことをよくわかっておられない方々が解雇の問題を議論している印象もあります。現状は「解雇規制の緩和」という言葉だけが独り歩きしており、解雇ルールの何が問題で、なぜ、そして何を、変えなければならないかという本質的な点の考察を欠いた議論になっていると見ています。

──そもそも日本の解雇規制の現状は。

大内氏:現在の日本の解雇ルールの基本は、労働契約法第16条に定めがあり、それによると「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」がなければ、解雇は無効になるとされています。

 ただ、「客観的合理性」や「社会的通念上の相当性」といっても抽象的で、どのような場合に要件を充たされるかは、実際に裁判をしてみないとよく分かりません。企業が必要だと考えた解雇と、裁判所が正当だと考えた解雇にズレがあれば、解雇は無効になってしまいます。これが現状のルールです。

大内伸哉(おおうち・しんや) 神戸大学大学院法学研究科教授。専門は労働法と労働政策。著書に『解雇改革』(中央経済社)、『解雇規制を問い直す』(共著・有斐閣)など

──解雇規制の見直しの議論はなぜ起きているのでしょうか。

大内氏:まず先ほど言及した解雇ルールの不明確性は従来から指摘されていました。確かに個々の解雇を巡る状況は多様で、労働契約法16 条の明確性を高めるのが難しい面はあります。様々な解雇パターンに対応できるように法律の条文は抽象的にしておいて個々の判断は裁判官に任せよう、というのが現状のルールです。

 ただ、経営者側も労働者側も裁判をしてみないと解雇の有効性が分からないという状況が本当にいいのか、という議論はこれまでもずっとありました。

 さらに、日本型雇用システムや働き方の変化もあります。日本の現状の解雇ルールは、正社員の長期雇用を保障し、賃金が勤続年数に応じて上昇する日本型雇用システムを軸に展開されてきました。

 しかし今は1つの会社で長く働かない人も増えてきているほか、企業側にとっても、デジタル化の急速な進展などにより長期的な視点で社員を雇用して育成するということが難しくなっています。従来の長期雇用を軸とした日本型雇用システムが限界を迎えているなかで、それにリンクして形成されてきた解雇ルールも見直さざるを得ないのは当然です。

──他方、自民党総裁選に立候補している小林鷹之前経済安全保障相などは、解雇規制の緩和について「働く人々の不安をあおりかねず、格差を固定・拡大しかねない」などとメディアのインタビューで語っています。解雇規制を緩和すると格差は拡大するのでしょうか。