実態として、すでに解雇は金銭で解決されている

大内氏:経営が悪化し人員整理が必要な場合、退職金の上乗せなどの金銭的なインセンティブをつけて辞めてもらう希望退職制度もあります。これは解雇という形をとっていませんが、実際には、解雇と同じような効果をもっています。

 また、裁判所が解雇を無効とすれば、労働者は職場に戻れますが、実際には企業が金銭を支払って労働契約の解消をしている例が多いと言われています。企業側はこれまでコストをかけて育成してきた人材をあえて解雇するというのは相当な決断をしているので、いまさら復職させにくいという事情があります。労働者側も、いくら裁判で勝ったからといって、いったんは辞めせられた企業で働き続けるのは困難です。

河野太郎氏は金銭補償の導入に言及した(写真:アフロ)

 だから結局は金銭解決となるのですが、この場合、その額は労使の交渉力次第となり、企業にとって負担が重くなる場合もあれば、労働者側が買い叩かれる場合もあります。こうしたことを避けるためには、金銭解決という方法を正面から法律で認め、その補償額の基準を定めたらどうかという話になるのです。

 金銭解決が突飛なことではないのは、労働審判では、金銭解決が標準となっていることからもわかります。労働審判とは、法律の規定にこだわらず、実情に即した解決を目指す個別労働の紛争解決制度で、2006年に導入されていますが、そこでは解雇紛争は、企業に非がある場合でも、金銭の支払いにより労働契約を解消するという内容の審判が多いと言われてます。
 
 このように裁判で解雇が無効になったとしても、多くの場合、実態として金銭の支払いを伴って労使契約が解消されているのならば、そうした実態を法律に取り込んで金銭解決制度として整備したほうがよいと言えるのです。

──海外の解雇を巡る状況はどうでしょうか。

大内氏:各国の解雇規制はさまざまです。米国のように、差別的解雇を除くと解雇は自由にして良いという国もあれば、ドイツのように法律によって、解雇には社会的正当性が必要だと明文化されている国もあります。

 日本の労働法は昔からドイツの法律の影響を受けていますが、そのドイツでは、たしかに社会的正当性が認められなければ、解雇は無効になるのですが、当事者間で信頼関係がなくなっているような場合には、当事者の申立てにより、裁判所が企業に対して、法律の定める基準による補償額の支払いを命じたうえで労働契約を解消するという制度があります。欧州ではドイツ以外の国でも、何らかの形で法的に金銭解決を認めている国がほとんどです。

 欧州の状況を踏まえると、法律の制度として金銭解決がない日本は著しく硬直的ではないかという議論もあります。

──金銭解決ルールを導入すれば「解雇の自由化」が実現するのでしょうか。