EUが採る急進主義的アプローチの限界

 仮に欧州委がEUDRの導入に踏み切っていれば、カカオ(ココア)に関して言えば供給不足で価格が高騰していたため、ヨーロッパ人が心血を注ぐチョコレートの価格が暴騰することになったはずだ(図表2)。もしかしたら、ヨーロッパで、チョコレートの第二市場、つまり闇市場が形成されることになったかもしれない。

【図表2 米国ココア先物】

(注)週次(出所)CME(注)週次(出所)CME
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 つまり個人輸入などのかたちで、第三国から規制を逃れたコーヒーやカカオ製品が輸入され、それが秘密裏に売買されるというわけだ。当然、諸外国に比べると割高な価格となるから、利益を求める業者はEUに積極的に輸出する。そうなれば、コーヒーやカカオ製品に、グローバルな価格上昇圧力がかかる。とんだブリュッセル効果である。

 EUはブリュッセル効果の発動に当たり、EVシフト然り、石炭火力廃止然り、極めて急進的な手法を好む傾向が強い。

 環境分野以外でも、例えば金融規制にもそうした傾向が窺える。経営難に陥った金融機関の救済に当たって、公金注入よりも投資家負担が優先されるべきとする「BRRD」と呼ばれる規制にも、そうした急進性が反映されている。

 別の表現をすると、EUは極めて規範主義的であり、原理主義的である。そうしなければ、別々の方角を向いている複数の加盟国を束ねることはできないし、またグローバルにも影響力を行使できないのだろう。

 とはいえ、EVシフトの後退からも明らかなように、そのアプローチは実効力に乏しく、EUは内外での求心力の低下につながっている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。