フランスのマクロン大統領は、新首相に中道右派の共和党に所属するバルニエ氏を任命した。もっとも、マクロン大統領は右派・国民連合の台頭を防ぐため左派連合と共闘した経緯もあり、総選挙で第一勢力となった左派連合とその支持者は強く反発している。果たしてフランスの政情はどうなっていくのだろうか。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は9月6日、中道右派の共和党に所属するミシェル・バルニエ氏を新首相に任命した。バルニエ氏は今年で73歳。フランスでの政治経験は非常に豊富であるし、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会でも長年にわたって活躍した。英国のEU離脱交渉では、EU側の首席交渉官を務めた。
これによって、7月の総選挙以降2カ月にわたって続いた政治空白が一応の解決を見たことになる。
世論会社Ifopが9月5-6日の2日間にわたって有権者950人に対して実施した世論調査によると、バルニエ首相の支持率は52%と、ガブリエル・アタル前首相(在任期間は2024年1月-9月)の就任時(53%)とほぼ変わらなかった(図表)。
【図表 バルニエ首相の評価(9月5-6日調査)】
バルニエ首相の支持者層は、中道のルネッサンス支持者と中道右派の共和党支持者が主である。加えて、過半には満たないまでも、マクロン大統領が警戒する右派の国民連合の支持者層のほぼ半数(48%)が、バルニエ首相を評価する。国民連合のジョルダン・バルデラ党首も、右派の重鎮であるバルニエ氏の選出なら歓迎するとコメントした。
反面で、総選挙で第一勢力となった左派連合に属する左派の「不服従のフランス」や社会党の支持者は、バルニエ首相の就任を批判する。
それもそのはずで、左派連合は経済学者でもある左派の女性若手官僚リュシー・カステ氏を擁立していた。マクロン大統領は、左派連合の意向を無視してバルニエ氏を新首相に選んだことになる。
当然、左派連合の支持者は強く反発し、7日にはフランス各地でデモが発生。内務省の発表だと11万人が参加したようだ。
マクロン大統領は右派・国民連合の台頭を防ぐために左派連合と共闘したが、選挙後は一転して国民連合に配慮するために共和党から首相を選出した。マクロン大統領の「バルカン政治家」ぶりが遺憾なく発揮されたわけだ。