次期大統領選に残る禍根

 再び内政に目を転じると、バルニエ首相が仮に短命に終わった場合、下院の構造が左派、中道、右派の三つ巴である以上、その次の首相もまた短命に終わる展開は回避しがたいと考えるべきだろう。

 空転する下院をよそに大統領が憲法上の特例規定を乱発すれば、下院との軋轢も高まるばかりではなく、国民の政治不信を招くことにつながる。

 フランスは3年後の2027年5月に大統領選を控えている。多選規定では二期までしか任期を務めることができないため、マクロン大統領は退場となる。

 マクロン大統領の正統な後継者は、エドゥアール・フィリップ元首相になるのではないか。共和党出身のフィリップ元首相はマクロン大統領の下で3年間首相を務め、国民的な人気が高い。

 フィリップ元首相は早々に次期大統領選への出馬を明言している。対して、国民連合からは、同党を代表する政治家であるマリーヌ・ル・ペン氏か、その後継候補が出馬することになるだろう。左派の「不服従のフランス」からは、ジャン=リュック・メランション氏が三度目の正直で出馬するかもしれないが、高齢のため他の候補かもしれない。

 有権者がマクロン大統領に抱くイメージは悪い。その正統な後継者であることを強調し過ぎると、フィリップ元首相はかえって票を失うことになる。そうなると、フランスでついに中道以外の政党から大統領が誕生する展開が視野に入ってくる。

 マクロン大統領によるバルカン政治家としての資質は、フランス政治にかえって禍根を残すかもしれない。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)がある。