EUを悩ませる食品インフレの恐怖

 ユーロ圏の最新8月の消費者物価は前年比2.2%と、欧州中央銀行(ECB)の物価目標である2%にようやく近づいてきた(図表1)。2022年以降の高インフレ局面を振り返ると、前半はエネルギー物価の急騰が、さらに後半は食品価格の高騰が、消費者物価全体を押し上げたことが分かる。

【図表1 ユーロ圏の消費者物価上昇率】

(注)食品等にはアルコールとタバコを含む(出所)ユーロスタット(注)食品等にはアルコールとタバコを含む(出所)ユーロスタット
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 このときの食品価格の高騰は、2022年2月に生じたロシアショックによって引き起こされている。

 ロシアがウクライナに侵攻し、両国が交戦状態に入り、ウクライナ産の食用油や穀物、肥料の供給が滞ったことなどが、食品価格の高騰につながった。その影響は2024年にようやく一巡したが、EUDRを導入すれば、再び食品価格が跳ね上がる。

 先述のとおり、欧州委がEUDRを提案したのは2021年11月と、22年2月のロシアショックの直前だった。その直後にロシアショックによる高インフレが生じるなど、欧州委にとっては想定外の出来事だった。言い換えると、欧州委は低い食品価格を前提にEUDRを構想していたことになるが、その前提はもはや通用しない。

 6月の欧州議会選やその前後のEU各国の国政選挙でも、インフレ対応は有権者の強い関心事だった。ここでEUDRの実施を強行すれば、食品インフレの再燃は避けて通れないばかりか、むしろ2022年以上の食品高を誘発しかねない。それこそ、有権者の反EU感情の火に油を注ぐような事態で、欧州委にとっても容易に受け入れがたい。