中国の自動車ブランドBYDが今年6月日本市場に投入した第3弾モデル「シール」。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が4000kmロードテストを敢行し、【前編】では粗削りな部分も多々あれど、全体的なパフォーマンスや動的質感はテスラ「モデル3」的な高さを見せたことを紹介した。では、果たしてBYDは日本市場での存在感を高めるため、この先進性をうまく生かすことができるのだろうか。【後編】
〈ラインアップ〉
【前編】BYD「シール」4000km試乗レポート/大胆にもテスラ「モデル3」にがっつりかぶせる野心むき出しのクルマ
【後編】BYD「シール」4000km試乗レポート/アイキャッチ性抜群のデザイン、気になる航続力&充電性能の実力は?(本稿)
高速・一般道混合ルートで測った「実用航続距離」
走行性能や快適性について驚くべきことに米テスラ「モデル3」的な先進性を見せたBYD「シールAWD」。【後編】では航続力と充電性能から見ていこう。
まずは100%充電時の航続性能から。横浜で車両を借り受けた時の充電率が86%であったため、厚木で100%充電を行ってからスタート。
当日は神奈川を震源とする地震の影響で東名高速が通行止めとなっていたため、沼津から新東名に。静岡の島田金谷で高速を下りた後、国道1号線および23号線バイパス、さらに信楽高原を経由して1回目の充電になるであろうと予測していた京都に達した。
到着時の走行距離は461.5km、バッテリー充電率は11%だった。高速・一般道の混合ルートの場合、500km程度が実用航続距離と見ていい。
京都で使用した急速充電器は新電元というメーカーが製造した最大電流350Aのもので、テスラの急速充電器「スーパーチャージャーV3」やポルシェディーラーに設置されている水冷ケーブル方式のABB社製充電器を例外とすれば現時点で国内最速の機材である。
【前編】の車両解説で述べたようにシールはバッテリー電圧が550V。最大出力電圧が450Vどまりのこの充電器では電圧が足りず、取り込んだ電気を車両側で昇圧して充電する。充電器のディスプレイを見ると、充電電圧は平均420V、電流は250A。かけ算すると出力105kWとなるが、クルマのインパネに表示される受電電力は101kWにとどまる。この差が昇圧に伴う損失と考えていい。
投入電力量は10分で17.4kWh、20分で34.9kWhと大変多いが、この時は気温が35℃と高かったためか、24分40秒経過時にクルマではなく充電器のほうがケーブル過熱で音を上げ、充電が停止した。停止直前の投入電力量は42.7kWh、30分換算で51.2kWhだった。充電率は11%から58%に回復。
この値から、0%から100%に回復させるのに必要な投入電力量は42.7÷0.47=90.9kWhと計算できる。メーカー発表のバッテリー容量は82.56kWhだが、投入電力量からみて物理容量ではなく実際に使用可能なユーザブル容量であると推察された。
後に佐賀で同じタイプの充電器を用いて充電してみたが、その時は気温が30℃前後だったこともあって30分完走し、投入電力量51.6kWh(100%換算90.5kWh)を確保できた。
ちなみに最大電圧800Vの欧州や中国の充電器の場合、日本の1.5倍のペースで充電可能。こう考えると日本にもそろそろ800Vアーキテクチャ対応のインフラが欲しくなってくるところだ。