BYDの日本戦略、今後はバジェットブランドを目指すのか

 昨年日本で乗用車販売を始めたばかりのBYDにとってブランドメイキングはこれから。第一陣として発売すると宣言した3モデルは揃ったが、今年の1~7月の販売台数は1291台にとどまる。日本で中国ブランドのBEVを売る難しさはある程度覚悟していたであろうが、本国のBYDとしても日本法人としても甚だ不本意に感じているであろうことは想像に難くない。

 問題は今後の方針である。BYDは本国では「シーガル」という小型・低価格のモデルを販売しており、ユーザーボイスの中にはその導入を望むものもある。販売台数の積み増しを主眼とするならば、バジェットブランドを目指すのはひとつの手だ。

 だが、今回シールAWDに乗ってみて、それ以外にも道があるように思えてきた。ドルフィンは日産リーフと格は同じで機能は上、価格はより安いというお買い得カーだった。それに対してシール、とりわけAWDは現状、日本車はおろか欧州車を含めても性能面で相手になるモデルがほとんどなく、難敵はテスラだけというアドバンス色の強いモデルだった。

BYDシールAWDBYDシールAWD(JR最南端駅として知られる指宿枕崎線西大山駅に隣接したひまわり畑と開聞岳をバックに/筆者撮影)

 今後も継続的にクルマを熟成させ、技術革新を繰り出すことが前提にはなるが、飛び出しで大半のライバルより上を行っていることを生かし、中国で販売を開始したSUV「シーライオン」を出すなど、同じバジェットでもプレミアム側を目指すという手もある。

 商品力はあるが、品質やブランドへの信頼感については海の物とも山の物ともつかないというのが日本におけるBYDの立ち位置。これはアメリカにおけるテスラの黎明期と同じ境遇だ。

 高性能、高機能、デザインで“新しもの好き”なユーザーを吸引し、そこを突破口にしてとりあえず最初の10年を頑張る。もとより難しいチャレンジなのだから、そんな破天荒なマネジメントも面白そうな気がした。

BYDシールAWDBYDシールAWD(島根最西部の持石海岸にて/筆者撮影)
総走行距離4168.5kmのテストドライブだった(筆者撮影)

【前編】BYD「シール」4000km試乗レポート/大胆にもテスラ「モデル3」にがっつりかぶせる野心むき出しのクルマ