スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが日本で販売を開始した新型電気自動車「EX30」。その高性能ぶりは米国のBEV(バッテリー式電気自動車)メーカーであるテスラが本来2020年にリリースするはずだった小型BEVそのものという感があった。小型車分野で初めて後手に回ったテスラはBEV界のイノベーションリーダーという地位を保てるのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。(JBpress編集部)
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初めてチャレンジャーの立場に置かれるテスラ
中型電動SUVの「モデルY」が2023年、エンジン車も含めてグローバル最多販売モデルとなるなど、BEVにおいて圧倒的なリーダーシップを発揮してきた米テスラ。
その強さを支えてきたのは高性能かつ先進的なクルマをライバルより常に早く出すというアグレッシブな経営スタイルだった。が、そのテスラが初めてチャレンジャーの立場に置かれる時が来ているのかもしれない。
そう感じさせられたのはスウェーデンの自動車メーカー、ボルボが今年に入って本格的に販売を開始した全長4.2mクラスの小型電動SUV「EX30」のロードテストだった。ボルボはBセグメント(サブコンパクトクラス)と定義するが、速力や快適性はBEVであることを勘案しても、Bセグメントのイメージを完全にしのぐものだった。
テスラのCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク氏はかつて、2020年には小型・低価格のBEVをリリースすると発言していたが、後回しに次ぐ後回しになっていた。
コロナ禍やその後の部品不足、資材高騰、また電動ピックアップトラックの「サイバートラック」の開発に手間取った等々、理由はいろいろ考えられるが、テスラが出すような性能のモデルを後発が出してくるとは考えにくいといった油断もあったのかもしれない。
そんなところに登場したEX30は少なくとも性能、快適性については本来テスラがとっくに出しているべき、また世間からもリリースが期待されていた小型モデルそのものという商品性である。
今年に入ってマスク氏は投資家に向けて改めて2025年に小型・低価格BEVを出すと発言したと伝えられている。すでにBEV界ではナンバーワンのブランド力を持つテスラゆえ、出せばもちろん売れることだろう。
だが、計画を5年も後ろ倒しした上、他社に先に高性能モデルを出されるというのは、一番乗りを旨とするテスラらしからぬ振る舞い。どんなニューカマーも時がたてば守りの側に立つのは世の常だが、テスラも攻守交代の時期に差しかかっているのかもしれない。