ガス価格急騰の中で「脱原発」に踏み切った政治判断

 ドイツの場合、日本のような過剰な通貨高への心配は共通通貨という性質に鑑みればあり得ないものの、その分、日本よりも急性的な「電力などエネルギーの供給問題」がある。

 既に商工会議所の調査でドイツ企業の声を確認しているため、確認するまでもないが、ドイツ国内のエネルギーコストは電気代もガス代も鋭角的に増加している(図表④)。

【図表④】

ドイツにおける非家庭用の電気代およびガス代ドイツにおける非家庭用の電気代およびガス代

 ようやくピークアウトの兆しも見られるが、パンデミック前の水準と比べれば2023年末時点でガス代は約2.2倍、電気代は約1.3倍に膨らんだままだ。

 対露関係の悪化による天然ガス調達の途絶はある程度不可抗力だとしても、その苦境を横目にわざわざ理想のために原発稼働を断ち切ったという政治判断をドイツの企業部門が受け入れるのは難しいだろう。

 こうした状況に対し、2023年8月29日にはドイツ政府が「ドイツ、ビジネス拠点としての10個の計画」を提示しているが、それまでにお題目として繰り返されてきた再生エネルギーや水素の最大活用を宣言するものであり、長期的な解決策になっても(もはやそれすら怪しいが)、短期的なエネルギー価格抑制には立たない宣言であった。

 なお、ドイツ企業の国外脱出にあたっては近年のユーロ相場が高止まりしていることを原因に挙げる向きもあるようだが、筆者はこの点は反対である。これは次回以降の本コラムで別途詳細に議論させて頂きたいと思う。