「転勤NG」の意思表示をする社員が増えている(写真:umaruchan4678/Shutterstock.com)

川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)

転勤を「させるも地獄、なくすも地獄」の時代背景

 仕事もプライベートも大切にする風潮が広がる中、会社は社員に24時間戦えと求めるどころか、転勤に応じてもらうのでさえも簡単ではなくなってきています。

 転居を伴う形で全国各地や海外に配置転換させられる転勤制度は、これまで人員手配策として有効に機能してきました。しかしながら、採用難の慢性化で売り手市場の傾向を色濃くする中、転勤を強制する会社は今後さらに働き手から選ばれにくくなるかもしれません。

 転勤を巡って、悩ましさを感じている会社は少なくないと思います。大成建設では、最大100万円の転勤手当を支給すると報じられました。一方で、転勤させることをやめ、勤務地を限定するという真逆の取り組みも見られます。会社は転勤と、これからどう向き合っていけば良いのでしょうか。

金融大手でも進む転勤支援、賃上げの取り組み(表:共同通信社)

 転勤には長い間、断れない雰囲気がありました。恋人など心を通わせあった者同士が、転勤を機に離れ離れになるというのは、昭和や平成のドラマなどでよく目にした展開です。転勤には天からのお達しのごとく、絶対的な強制力がありました。

 ところが時代は変わり、いまや転勤を強制すると退職の原因にさえなりえます。さらに人口は減り続け、会社としては転勤に応じない社員に「キミの替わりはいくらでもいるぞ」などと強気に出ることも難しくなってきました。

 その半面、社員からすると徐々に転勤NGが主張しやすくなってきています。会社としては、転勤NGが主張しやすい雰囲気が世の中に広がるほど、転勤を受け入れてもらうのがより大変になります。

 では、転勤させるのはあきらめて、勤務地限定正社員を増やしていけばいいのかというと、そこにはまた別の悩ましい問題が生じます。転勤をさせるも地獄、なくすも地獄です。なぜ、転勤制度は地獄に挟まれてしまうのか。背景を確認してみましょう。