
生成AIの登場から2年以上が過ぎ、企業への導入が進む中で活用に向けた課題も浮き彫りになっている。松尾研究所は、AI分野の研究で知られる東京大学「松尾・岩澤研究室」の成果を社会実装する役割を担う。同社取締役の金剛洙氏が注目する、最新のAIの潮流と、企業の取るべき道を聞いた。
「ディープシークショック」とは何だったのか
――2025年初頭に中国の企業「ディープシーク」が発表した生成AIは、その開発費用の低さから、欧米のAI開発企業や半導体業界に衝撃を与えました。金さんは、どう見ていますか。
金剛洙氏(以下・敬称略) さまざまな疑惑が取り沙汰されていますが、それらを度外視するなら、ディープシークの登場は、いくつかの意味があると思っています。1つは、生成AI開発コストの減少、同時に計算資源の減少という新しいパラダイムをもたらしたことです。
生成AIの業界は、2022年に登場した「ChatGPT」を開発するOpenAIの一強ともいえる状況が長らく続いていました。OpenAIの製品は膨大な計算資源を用いる学習モデルであり、最先端の生成AI研究を行いたい企業や団体は、大きな計算資源を確保する必要がありました。このことが、AIの開発にかかるコストの増大だけでなく、学習に用いる環境負荷の大きさについても問題視される要因となっていました。そこに現れたディープシークは、生成AIを本格的に使うには巨大な資源が必要という常識に、一石を投じたと考えています。
――米国のメガテック企業も、昨今は環境を重視したテクノロジーの開発を重視しているはずです。なぜディープシークは、少ない計算資源で高性能なAIを先行して開発することができたのでしょうか。