50年を無駄にした日本の地震学

 このように見てくると、日本の地震学はこの50年間を無駄にしてきたと言わざるを得ません。無駄どころかむしろ有害な存在になりつつあります。

 南海トラフ地震の発生ばかりに注目が集まっていることに大きな問題があります。

 東日本大震災以降、南海トラフ地震の危険性が喧伝されるようになりましたが、東日本大震災以降に起きた大地震は、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震、2024年の能登半島地震など、南海トラフ地震以外の地域ばかりです。

 南海トラフ地震の危険性の根拠はプレート説に基づくものです。南海トラフ地震はフィリピン海プレートが南海トラフに沈むことで起きるとされていますが、フィリピン海プレートを生成する活動的な海嶺はいまだに見つかっていません。

 このため、「沈み込みによりフィリピン海プレートの面積は徐々に小さくなっており、いずれフィリピン海プレートはすべて沈み込んでしまい、地球上から姿を消してしまうのではないか」と指摘する地震学者もいます。

「語るに落ちた」とはこのことでしょう。ありもしないフィリピン海プレートを前提に「巨大地震が必ずやってくる」と叫び続ける地震学者の姿を見るにつけ、暗澹たる思いになります。

「想定外の地震」の発生に狼狽した地震学者が、責任逃れのための格好の材料として南海トラフ地震の危機を叫んでいる実情も明らかになっています。

 地震学のせいで私たちは「災害を正しく恐れる」ことすらできなくなっているのです。

 はっきり言って、プレート説に依拠した地震予知は無駄です。直ちに廃棄すべきでしょう。

 地震は地下の岩盤が割れてズレることによって発生する現象であることから、松澤氏は「地域ごとに地震の前兆を見極めるべきだ」と考えていました。

 この観点から、阪神淡路大震災以降、各地に設置された地震計が示す情報をリアルタイムで解析することが有用だと思います。

 各地に設置された地震計が示す微弱地震の発生状況は地震の予知に役立つと考えられるからです。

 日本列島からはるかに離れた海底の動きを把握するより、はるかに確実な方法です。

 全国の地震計を管理している気象庁はただちにこの情報を地方自体関係者らに開放し、地域ごとに地震予測を策定していくべきだと思います。

 その際、日本全体で約2000人いるとされる地震学者は、これをサポートすべきです。

 さらに、地震被害を最小限に抑えるという「減災」の発想に立ち、各自治体が主体となって「震度7でも耐えられる街づくり」を推進してほしいと思います。このことは第4章で詳しく述べます。

 地震発生を予測することは本来、難しいことですが、地震発生のメカニズムを誤って理解しているようでは話にならないのです。

 1日でも早く日本の地震学を正しいあり方に戻し、地に足の着いた形で防災対策を講じることができればとの思いで本書を執筆しました。

 読者に少しでも有益な視座を提供できれば望外の喜びです。

【連載:南海トラフ地震は起きるのか】
1)プレート説は現代の「天動説」、まるで宗教…日本の地震学は50年を無駄にした
2)プレートは何枚?なぜ沈み込む?そもそも大陸はプレート説どおりには動いていない(9/20公開)
3)発生確率「30年以内に70〜80%」は怪しい、巨額対策予算はもはや利権化(9/22公開)
4)地震は「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」で起きる!熱移送説とは(9/24公開)
5)富士山は当面噴火しない!首都圏で巨大地震のリスクが高いところは?地図で解説(9/26公開)
6)西日本・九州・北陸・東北…本当に危ないのはココ!熱移送説が明かす「地震の癖」(9/28公開)

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。