プレート説にとっての「不都合な真実」

 ここでプレート説にとって「不都合な真実」を1つ提示しておきたいと思います。

 プレート説によれば、「大きな地震はプレートの境界面近くでしか起きない」とされていますが、2008年5月に起きた中国の四川大地震(マグニチュード8.0)の発生原因はプレート説では説明できないのです。

 と言うのは、この四川大地震の震源は、プレートが衝突したり沈み込んだりするとされている場所から2000km以上も離れているからです。

 私とともに『南海トラフ M9地震は起きない』(方丈社)を執筆した角田史雄氏は、2007年の埼玉大学の講義で「中国の雲南省から四川省あたりで近い将来、大きな地震が起きる」との予測を学生の前で披露しました。

 それは、プレート説に代わって地震の発生を説明する「熱移送説」に基づく地震予測の第1号でした。

 ちなみに、地震予測は「20××年×月×日にどこで」というようにピンポイントで予測できるものではありません。この四川大地震の予測でもわかるように、「四川省あたりで近い将来」というところに、むしろ角田氏の科学者としての誠実さを感じます。

 ちなみに今、角田氏が気になっている日本の地震として、伊豆地方の北の端、具体的には富士五湖から沼津市にかけての地域を挙げています。この地域は約30年に1回の頻度で大きな地震が起きているので要注意というわけです。

 話を熱移送説に戻します。

 プレート説が普及する以前の日本では、地下のマグマの活動が地震発生に関係していると考えられてきました。マグマとは、地球の内部で岩石がドロドロに溶けた液体のことです。

 角田氏が唱える熱移送説に近い学説は1960年代半ばに既にありました。それは東京大学地震研究所の松澤武雄氏の「熱機関説」です。

 松澤氏は1965年に長野県松代町で起きた群発地震の調査を主導し、その結果から「地震の原因は地下のマグマの活動に間違いない」と確信しました。ちなみにこの調査には、当時の著名な地球科学研究者の多くが参加していました。

 プレートと違って、マグマが地下に存在することは科学的に証明されています。

 地震予知に関する確かな一歩が踏み出されたのですが、その直後の1969年にプレート説が日本に導入されたことが災いし、残念なことにこの研究は地震研究のメインストリームにはなりませんでした。

「プレート説が真理だ」と信じ込んだ学者たちが、米国の威光を笠に着て、松澤氏の熱機関説を駆逐してしまったのです。