地震は熱エネルギーの伝達によって引き起こされる?=写真はイメージ(写真:Thijs Peters/Shutterstock)

8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70〜80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは? そして、本当に危ない地域はどこか? 全6回にわたって連載する。(JBpress)

(*)本稿は『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)の一部を抜粋・再編集したものです。

(角田 史雄:地質学者、埼玉大学名誉教授)

 私が構築した熱移送説の概略をかいつまんで説明してみましょう。

 熱移送説の中で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく、「熱エネルギーの伝達」です。その大本の熱エネルギーは、地球の地核(特に外核)からスーパープリューム(高温の熱の通り道)を通って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こすというものです。

 火山の場合、熱エネルギーが伝わると熱のたまり場が高温化し、そこにある岩石が溶けてマグマ(約1000度に溶けた地下の岩石のこと。この高温溶融物が地表へ噴出したのが溶岩)と火山ガスが生まれます。そして高まったガス圧を主因として噴火が起きます。

 地震の場合は、地下の岩層が熱で膨張して割れることにより発生します。溶接でくっつけた鉄を力ではがすのは大変ですが、熱すると簡単にはがれることを皆さんはご存じだと思います。熱エネルギーの量が多いほど、大きな破壊(地震)が発生します。

 スーパープリュームは、地球の中心(外核)から、南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)と、東アフリカの2か所へ出てきます。

出所:『南海トラフM9地震は起きない』(角田史雄・藤和彦著、方丈社)
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 これは、地球の中心から表層に向かう流れの本流です。これ以外の無数の小さな支流は、隙間を見つけて地球の中を上へ上へと向かっているようです。日本の地震や火山の噴火に関係するのは、南太平洋から太平洋の周りを流れる本流のほうです。

 南太平洋から出てきた熱エネルギーは、西側に移動し、インドネシアに到達すると3つのルートに分かれて北上します。

 1番目のルートは、インドネシアを経由してフィリピンから西日本に到達する流れで、フィリピンのP、ジャパンのJをとって「PJルート」と呼んでいます。

 PJルートは、大きな噴火や地震が頻発しているフィリピンや台湾、沖縄から九州にかけた霧島火山帯へと続いています。2016年4月の熊本地震を起こしたのは、この熱の流れです。

 2番目のルートは、南太平洋からの道筋はPJルートと同じですが、フィリピンで枝分かれし、マリアナ諸島→伊豆諸島→東日本という流れです。マリアナのMとジャパンのJをとって「MJルート」と呼んでいます。

 伊豆諸島に沿って北上した熱は、南関東→東関東と、日本海溝→東北太平洋岸に枝分かれします。伊豆諸島北部で火山が噴火すると、1~2年後に首都圏南西部で地震が起きます。南関東→東関東の熱の流れは、多摩川や埼玉・東京都県境などの決まったゾーンを西から東へ順に「飛び跳ね」ながら地震を起こすと考えています。

 3番目のルートは、インドネシアのスマトラ島→中国というルートです。スマトラのSと中国のCをとって「SCルート」と呼んでいます。この熱の流れが、2008年5月の中国の四川大地震を起こしました。