まっ白な米粒状のもち麦を作り出した自社伝統の技術

 白米のようなもち麦を開発するにあたって、先輩とも言える商品がある。「白麦米」という1953年に発売された商品だ。しかし、米と一緒に炊くと大麦は比重が軽くて浮き上がってしまうという欠点があり、65年には加熱して水分の吸収をよくした米粒状の「マ・ミール」を発売。その後もさまざまな米粒状の大麦製品が登場してきた。製品開発の若手担当者の中からは「白米に馴染むうるち麦を使った米粒麦は食べやすくて美味しい」という意見もあり、その加工技術をもち麦に応用しようという案が出た。

「米粒麦」は学校給食の麦ご飯に全国規模で長く採用されてきた実績がある。子どもは視覚的に拒否感を持ちやすく、いつもと違うものへの抵抗感も大きいので白米に混ぜてもわかりにくいこの商品が好まれたのだ。「米粒麦」は、外皮を削ってから麦粒の真ん中にある黒条線に沿って半分に切断し、残った黒条線などをさらに削って中心の白い部分が出るまで磨き上げる。磨く工程で割れて粉々にならないように、熱を加えてアルファ化させ、均一に硬くした状態で磨く技術がこの時に開発された。

麦粒を半分に切断する(画像提供:株式会社はくばく)
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 もち麦はうるち麦よりも熱を加えてアルファ化させるとベタつき、機械にはりつきやすく、まったく同じ手法では加工するのは難しい。本多さんたちはもち麦に熱を加えることなく、割れないように白さを出せるまで削れるか、ラボで試行錯誤した。

「熱を加える工程がもち麦に向いていないのであれば、砥石で削る技術だけで白米に馴染む見た目になるまで加工できないかと検討を進めました。新しい技術を導入するのではなく、当社で長年培ってきた切断と磨く技術を組み合わせるのです。弊社の技術として大事にしたいという思いが私含め開発のメンバーにあり、非常に苦労しましたが、こだわった部分です」(本多さん)

 技術面だけでなく、もち麦の品種選定も重要だった。精麦メーカーとしてシェア1位の同社ならではの調達力で得られる多くの選択肢の中から割れやすい、磨いても米のような色にならない品種などを除外して、最も白米に近いもち麦を検討し、製造の適性の高いものが選ばれた。

 白米に近いもち麦を加工する工程は大きく3つの段階がある。①大麦の外皮を削る、②麦粒を半分に切断し、③0.01ミリ単位で削って白米の形状に磨き上げるのだ。切断する技術は、1953年に創業社長が近所の鉄工所の片隅を借りて数名の社員と開発した「峡南式高速度切断機」から始まり、機械はアップデートされているものの、大麦を1粒ずつ流してカッターで切断する構造は現在も変わらない。

 もち麦の加工にもこの自社伝統の技術を用いるわけだが、第一段階で削り過ぎると小さくなり過ぎてカッターの位置にうまく入らず、逆に大きいままだと詰まってしまうため、切断機に合った形状に削るように調整しなければならない。第三段階では、うるち麦では可能なアルファ化して硬さを確保することができないので、強い力で削ると割れて粉々になってしまう。できるだけやさしく削って磨いていくための調整に苦心した。ゆっくり丁寧にすればやさしい削りは実現できるが、時間がかかりすぎると工場での生産効率が著しく下がってしまう。品質と効率のバランスは高いハードルだった。

 70年前に開発された自社伝統の技術をもち麦に用いて工場生産するには、現場で機械をいかに調整するかにかかっている。本多さんは入社してすぐに工場でのラインオペレーター業務に就いていた経験を生かし、高度な職人技の調整を製造ラインの社員と共に粘り強く取り組んだ。

左が「白米好きのためのもち麦」、右は従来のもち麦(画像提供:株式会社はくばく)
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 大麦の重要な栄養素の水溶性食物繊維β-グルカンは、オーツ麦や小麦では外皮側に多く含まれているが、大麦は中心部までびっしり含まれている。そのため、白米に馴染むまで削り磨き上げても含有量は減らないので、極限まで磨き上げれば白米に混ぜてもわかりにくいものになる。こうして新商品「白米好きのためのもち麦」が完成した。

発売された「白米好きのためのもち麦 スタンドパック」(画像提供:株式会社はくばく)
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