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(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

「赤信号みんなで渡れば怖くない」は、いうまでもなくビートたけしを一躍人気者にしたギャグである。極端にいえば、このギャグ標語ひとつで、ビートたけしはこんにちの地位を築いたといっていい。

 日本人はこのギャグが大好きである。なにかというと、いまでもこの言葉は、人間の本質を衝いた言葉、あるいは日本人の本質をいいあてた言葉として引用される。

 逆にいうと、日本人は、赤信号をひとりで渡るのは怖いのである。けれど、ひとりが規則を破ると、追随するものが現れる。

 たとえば開かずの踏切で、いい加減しびれをきらしたひとりが、電車の一瞬の隙間を狙って遮断機をくぐって渡ると、「あ、いいんだ、じゃおれ(わたし)も」と、どっと追随するのである。

 無理もない。

 大きな法律違反はしないが、こんな軽微な規則違反なら、急いでいるときはしてもしかたがないと思っているからである。

ニューヨークでは信号無視を認める法案が成立

 アメリカのニューヨーク市で、昨年11月、歩行者が「信号無視」や横断歩道のない道の歩行を認める法案が成立した。

「信号無視や横断歩道のない道の歩行は『ジェイウオーク(Jaywalk)』と呼ばれる。『愚かな人・怠け者』を意味する俗語の『ジェイ』が派生してできた言葉だ。このジェイウオークを認める法律が2025年2月から施行される」というのだ(「アメリカ・ニューヨーク市で「信号無視」合法に 違反切符の人種差別に配慮」2024年11月5日、日本経済新聞)。

 ニューヨークでは元々、信号無視などの違反者は250ドル(約3万8000円)以下の罰金が科される。

 それがなぜ法律が撤廃されたのか。

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 理由の1つは、信号無視が横行しており、法律がまったく形骸化していたことである。これはわかる。ほとんどの歩行者がこんな法律など守るに価しないと思っているのだ。