この場合、信号無視しても、だれにも迷惑がかかるわけではない。遥か彼方まで見ても、車の影も形もないのだ。

 それなのに、信号無視して渡る人間を見ると、「信号守れよ」という。信号を守っている自分が、バカにされているように感じるのだろうか。

 と、いうように10年前までは考えていた。しかしすこし考えが変わってきた。

順法意識が形成する日本の治安

 日本人は順法意識が高い国民である。

 訪日した外国人がいうように、犯罪が少なく、治安がしっかりと保たれているのはそのおかげである。

 かれらは、小学1、2年の子どもたちが通学のためひとりで電車に乗ったり、女性がひとりで夜道を歩いたりすることが、信じられないという。

 しかし日本人の順法意識は、あくまで「法律は法律だ」(赤信号は赤信号だ)と信じていることによって、根本的に形成されているのではないか、と思うようになった。

 針が極端に振れることがないかぎり、中庸に落ち着くことはない、ということは、世間にはよくあることだ。

 わたしは、自分の理屈によって、赤信号は守らなくても平気だった。

 だが他方、ゴミを路上に捨てることができない。

 これは順法意識と関係ないが、ゴミ箱が見つかるまでゴミを持ち歩く。そういうことは平気なのだ。

 ときに法律よりも、自分の規範意識の方が上位にあるのである。自分の頭で考えることと順法意識は、両立するのだ。