そもそも「もち麦」とは

 穀物には炊いたときに強い粘りがでるもち(糯)性と、粘りが少なめのうるち(粳)性がある。もち米、うるち米をご存じの方は多いだろうが、大麦、小麦、きび、ひえ、あわなどにももち性とうるち性があり、もち麦は「もち性の大麦」のことだ。

 昔の食卓や刑務所で出てくるイメージの麦飯に使われるのはあっさりした食感のうるち麦で、現在だと麦とろご飯や牛タンと一緒に出てくる麦ご飯がそれである。

 もち麦はうるち麦に比べて食物繊維の含有量が高く、パサつきが少ない。最近では世界的に全粒穀物の摂取が謳われ、全粒粉や玄米など栄養に富んだ外皮を削らずに食べることが勧められているが、もち麦は外皮を削っても栄養を損なわないという特徴がある。今や外食チェーンのメニューに加わったり、コンビニのおにぎりや弁当にもラインナップしたりと、すっかり馴染みのヘルシー食材になった。

「健康によくてもイヤ」という層に食べてもらうには

 しかし、2020年頃からもち麦の売り上げは低迷し始める。はくばくがその原因を調査したところ、もち麦を好まない層があり、男性や子どもが多いことがわかった。女性は雑穀などが混ざっているご飯や色の付いたご飯に対する抵抗感は低い。一方で男性はそれらへの抵抗感が高く、白米を食べたいという傾向も明らかになった。家庭内で男性と女性、大人と子どもが併存する場合には白米オンリーか、もち麦など雑穀ご飯かを巡って衝突が発生していることが考えられる。

 炊飯器はたいてい一家に1台なのでどちらかに寄せなくてはならず、パワーバランスなどによってはもち麦が購入されなくなることが低迷の一因となっていた可能性がある。

「家族の健康、特に夫の生活習慣病の予防にともち麦ご飯にしたのにイヤだと言われ、困っているという声はよくいただいています」

 と、広報担当の手塚俊彦さんは話す。売り上げのためにも、国民の健康増進のためにも家庭での対立を解決するべく開発したのが、昨年3月に発売した「白米好きのためのもち麦」だ。もち麦の特徴であるプチプチ食感と特有のにおいを抑え、白米と変わらないまっ白な見た目に加工することで、白米に寄せつつもち麦の健康効果は失われないようにしたという商品だ。

 開発を担当したのは、2020年入社の若手、本多智栄子さんら製品開発課だ。本多さんは、開発の経緯についてこう話した。

「おかずは個々人の好みに合わせて味を調節するなどできますが、主食のご飯はみんなで同じものを食べることが多い。雑穀米やもち麦ご飯を食べたい人だけ別に炊いて冷凍保存しているというお話もよく聞きますが、続けるのは大変ですよね。家族みんなでもち麦ご飯を美味しく食べてもらいたい、そしてお米を好きなだけ気持ちよく食べてもらいたいと構想を練っていきました」