「やってみろし」で固定観念を突き破る商品を生み出す

 社内の固定観念を覆すのは並大抵ではないが、それを支えるのは長澤重俊社長が掲げる「やってみろし」で、チャレンジしやすい社風を目指している。長澤社長はこれまでも固定観念を突き破るヒット商品を世に出している。今でこそ同社の看板商品のひとつである雑穀を1999年に全国初で売り出したが、社内では「雑穀なんか発売したら、大麦を食べる人が減るではないか」という反発が大きく、「茶碗の中の戦い」と言われていたそうだ。

 また、2015年に発売された「ベビーめんシリーズ」という赤ちゃん向けの麺商品は、離乳食を作る際に麺を短く切るという手間を省けるという若手の女性社員の発案だった。しかし、「自分で切ればいいものを、誰も買うわけがない」とやはり反対の声が上がった。長澤社長の後押しで長さ2.5cmのそうめんを発売したところ、国内だけでなく中国やシンガポール、インドネシアなどでも大ヒットした。

 もちろん、成功例の裏には数多くの失敗がある。ユーザーのひと手間を省いてみよう、大麦を白米に似せようといった新しい発想を潰さないことは、組織の中ではなかなか難しいことだろう。本多さんによると、次に繋がる商品であれば、発売時期などスケジュールを白紙に戻して開発を続けたケースもあり、「白米好きのためのもち麦」でも開発チームがやるべきと考えた検証に時間を割けるように、余裕を持ったスケジュールを組むことができたという。

 本多さんは入社時から女性だから、若手だから、大学院卒だからといった線引きがあまりなく、その人を見てくれていると感じてきた。今回のプロジェクトに抜擢されたのも、何かしらの線引きなしに「本多だから」と任せてもらえたのだと思っている。

「会社の中でこれが美味しい、これがいいだろうと思っているものでも、食べたことがない人もいるし、万人受けするものは意外と無いのではと思うんです。この商品が私のように麦や雑穀の入ったご飯を食べたことがない人、苦手な人にとって、もち麦に触れる機会になればいいなと思って作りました。これからもチャンスがあれば年代や地域を問わず、いろんな人に愛される商品作りに携わりたいですね。ただ、家族や親戚は、私が作った商品を食べてくれないので、ちょっと悲しいんですけれど」

 米どころの攻略は、まだまだ難しいようだ。

健康的な穀物が米食復活の鍵に?

 米の1人当たりの年間消費量は1962年の118kgから減少し続け、2020年は50.8kgになった。また、家庭での年間支出金額では、2014年以降パンが米を上回っている*5

 しかし、麦や雑穀など健康的な穀物市場は、もち麦がブームになった2015年から現在まで約1.5倍に拡大しているのだと手塚さんは話す。つまり、雑穀ご飯を食べる人は増えているはずで、さらに食べやすくなれば米の消費量も上向くかもしれない。

 様々な食材とにらめっこせずとも、米に混ぜて炊くだけで食物繊維や他の栄養成分をプラスできるのだから、食生活をガラッと変える必要もない。

「この商品は『いいおせっかい』として、隠して混ぜられます。それが成功したというお客様の声はまだ聞けていないのですが、これまでおいしく食べられなかったという方々に届いていればいいなと思います」(本多さん)

*5 農水省「消費者相談 穀類」より