岸田政権は結局、先送りに
「1億円の壁」に税制の不平等問題は、これまで何度も政治のテーマとなってきました。とりわけ大きな議論となったのは、前回2021年9月の自民党総裁選です。現首相の岸田文雄氏は、総裁選に立候補した際、格差是正に向けた分配機能の強化を柱とする経済政策案を発表しました。
そのなかで、岸田氏は「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と訴え、「令和版所得倍増」計画を発表。格差是正に向けて、従業員の賃上げに取り組む企業への税制支援を打ち出したほか、金融所得課税の見直しを掲げ、「新しい日本型資本主義」を提唱しました。経済的な強者のみに利する税制ではなく、「富の再分配」という政府の本来的な機能を強化しようと考えたのです。
ところが、岸田氏が総裁選に勝利すると、株価は大幅に値を下げていきます。2021年10月4日の首相就任から3日間で、日経平均株価は1200円以上も値下がり。海外メディアはこぞって「岸田ショック」と報じました。
金融所得課税の強化を打ち出した姿勢に対し、投資への意欲を失わせるものだと投資家が一斉に反発。小泉政権下で始まった構造改革に否定的な姿勢を示したことも市場にはマイナスと受け止められたようです。
金融所得課税の強化はその後、国会などで何度も議論の対象になりました。とくに2022年10月の政府税制調査会では、学識経験者らの委員がこぞって格差是正の必要性を指摘。「所得税率の構造としては大問題だ。できるだけ早く是正すべきだ」「現行税制を正当化することは難しい。高所得者に対する負担の強化を議論しなければいけない」といった声が相次いだのです。
しかし、岸田政権は結局、高所得層や経済界、市場の反発などを恐れて課税強化に進むことはできず、問題を今日まで先送りしていました。
今回の自民党総裁選に関しては、金融所得課税の強化を明確に打ち出したのは石破氏しかいません。オープンな場で是非を議論する絶好の機会ですが、「議論するタイミングではない」(小泉氏)として議論そのものを回避するとしたら、国民は大いに失望するでしょう。
フロントラインプレス
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