所得総額が1億円を超えると税負担が減っていく

 ここで、金融所得課税とはどのようなものかを見ていきましょう。

 金融所得課税とは、預金や株式、投資信託といった金融商品で得た所得(配当金や利子、株式譲渡益など)にかかる税金のことです。税率は一律で所得税15%、住民税5%の計20%(復興特別所得税0.315%を除く)。この税率は、所得全体の金額と連動せず、所得の多い人も少ない人も20%という税率は変わりません。

 一方、所得税は、所得金額の多い人ほど税率がアップする「累進課税制度」です。

 課税所得金額が195万円未満の場合は税率5%ですが、195万円以上330万円未満の場合は10%です。その後は330万円以上695万円未満が20%などと税率は上昇。最高税率は課税所得金額が4000万円以上の場合に適用される45%です。これに税率10%の住民税が加わるため、最高税率の合計は55%になります。

実態として、所得総額が1億円を超えると税負担は減っていく(写真:beauty-box/Shutterstock)

 ここで注意すべきは、金融所得課税の税率は常に一定なのに対し、所得税の税率は累進課税という点です。つまり、2つを比較した場合、低所得層にとっては金融所得税率のほうが高く、富裕層にとっては金融所得税率が低いのです。実態としては、富裕層になればなるほど、所得全体に占める金融所得の割合は高くなるため、「富裕層の税負担は少なすぎる」といった不平等感が生まれているのです。

 そうした実態は、統計資料でも明確に現れています。

 国税庁の「申告所得税標本調査(2022年)」によると、所得が増えるに従って税負担率が高くなっています。合計所得が300万円超400万円以下の所得税負担率は3.4%ですが、5000万円超1億円以下で26.3%に達しています。ところが、1億円超2億円以下になると、税負担率は25.9%へと低下。その後も所得が増えるにつれ税負担率は明確に減少し、50億円超100億円以下の層では15.7%となっています。

 所得総額1億円近辺を境として、それより所得の多い人は税負担率が減少していくこの現状は「1億円の壁」と呼ばれ、現行税制の不平等性を示す象徴とされてきました。

 もっとも、金融所得課税の税率を所得税よりも低く設定するのは、日本だけではありません。例えば、米国では給与所得に対する税率(連邦税)は最高で37%ですが、金融所得税(連邦税)は最高20%に抑えられています。

 ただし、金融所得の金額に応じて税率は0%、15%、20%の3段階。日本のように一律で20%を課す仕組みにはなっていません。英国も給与所得への税率は最高45%で、株式譲渡益への課税は最高20%ですが、株式譲渡益は10%と20%の2段階。しかも1万2300万ポンド(約230万円)までは非課税です。