夜回りで話す捜査関係者は本当にいるのか?

三枝:事件報道というもの自体が捜査妨害の要素を常に含んでいます。本書の中でも、ここは強調しましたが、極論を言うと、捜査の状況を報じるような事件報道というものはなくてもいい。解決してから結果だけを報じればいい。

 ただ、鹿児島県警で最近発覚した問題などを見ても分かるように、おのおのの警察官は正義感が強く、そのおかげで日本の治安はこのレベルに保たれていますが、一方で権力を持つと、どうしても権力を笠に着て都合の悪いことを隠そうとすることもあります。

 だから、記者が捜査状況をきちんと追いかけ、報道を通して多くの人が状況を理解していることが大切。そのためには、立場の人からいろいろなことを聞いていく必要があります。

 かつて、静岡県の沼津市で東京の企業経営者が殺害された事件がありました。この捜査の時はまだ防犯カメラが普及していない時代だったので、警察は疑わしい日の高速道路のチケットを集めて、そのすべてから指紋を採取して照合しました。

 すると、殺害された社長の会社で役員を務める人間の指紋がその中から出てきた。遺体が遺棄される前日に、その人は沼津まで車で行っていました。しかし、警察はそこから4カ月間は、その役員を逮捕しませんでした。

 しかも、さらに調べて遺体に巻き付けてあった粘着テープに赤い繊維片があって、その繊維片が社長の自宅の絨毯と一致するという鑑定結果も出ても、まだ逮捕しませんでした。警察は確実と言えるまで慎重に証拠を集め、最終的に逮捕するのです。

 こうしたことは警察の公式な発表にはありませんでした。夜回りで鑑識や捜査一課の人から私は情報を聞き出しました。

──捜査関係者を夜回りしたからって、それだけの情報を教えてくれるものですか?

三枝:夜回りで貴重な情報が得られるケースは本当に稀です。いろいろと話してくれる捜査関係者は、夜回りを20人くらいして、やっと1人いるかどうかという感覚です。

──夜回りなどで、非公式に聞いたことを記事に書いたら怒られませんか?