「女性が下着を持たないで出て行くことは経験則上あり得ない」

──警察の取り調べでは、容疑を認めても、調書が作れないと困ってしまうと書かれています。「私がやりました」と認めさせるだけではダメなのでしょうか?

三枝:それだけではダメです。法廷には「甲号証」と「乙号証」という2つの証拠が出されますが、甲号証は、物的証拠やその人の戸籍謄本や経歴などです。乙号証とは供述証拠です。この供述は調書になっていなければならない。最後に署名をして、指印や捺印がないと証拠価値がありません。

 よく暴力団の捜査で見られますが、被疑者が調書を巻かせてくれない(書かせてくれない)。しばしば報道で「犯行をほのめかす」という言い方がありますが、その表現が使われる場合の一つは、やったことは認めるが、調書に書けるような具体的なことは言わないということです。憲法第38条に書かれていますが、自白だけでは訴追できません。

 だからこそ、警察の捜査で最も解決が難しいものの一つが、行方不明事件の捜査です。

 なぜ行方不明の捜査が難しいかというと、証拠がないからです。今は防犯カメラの設置なども増えてきたので状況は変わってきましたが、証拠がないと捜査はものすごくやりにくい。とはいえ「あいつがやったんじゃないか」という容疑者候補は浮かんでくる。そうなると、その人を自供にまで持ち込めるかどうかが勝負になります。

 僕が担当していた静岡県警では当時、女性が失踪すると、まず日記を調べました。男のことが書いていないか見る。次に下着を調べます。自発的に出て行った時には下着を持っていく。「女性が下着を持たないで出て行くことは経験則上あり得ない」とある刑事さんはおっしゃっていました。

 当時の静岡県警はすごくレベルが高くて、行方不明の事件をたくさん解決していました。これに対して、東北の某警察署では、同じような女性の失踪があった時に、犯人がわざわざ失踪した女性の家に来て、「日記を見たい」と言って、そのまま日記を持って出て行ってしまった。その警察署は日記帳を調べてなかったんです。

 捜査能力は場所によってそれくらい変わります。東北では事件の件数が少ないですからね。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。