捜査関係者がマスコミにリークするというのはよくある話か?

三枝:怒られます。出入り禁止にされたり、電話口で怒鳴られたり、そんなことは日常茶飯事です。特に警察が嫌がるのは、逮捕状について書くことです。逃げられちゃう可能性があるからです。記者からすると、逮捕状の情報をあげるのはAランクの難易度です。

 1974年から1975年にかけて発生した「連続企業爆破事件」では、産経新聞社会部が犯行グループ逮捕状をスクープしましたが、警察の怒りはすさまじいものだったそうです。

 当時の土田國保警視総監は、最終的に産経新聞の警視庁キャップと折衝して、最終版だけに掲載したり、配達の時間を少し遅らせたりするなど、いろいろと調整をしたようです。

 そこまでしても、逮捕状についてどうして新聞が書くのかというと、新聞がよく売れるからです。注目の事件で警察が逮捕状を出すのは、とてもインパクトがある。

 2004年に奈良県で発生した「小1女児誘拐殺人事件」では、毎日新聞が「今日にも重大局面」という見出しで逮捕状をスクープしましたが、なんとその事件の犯人は毎日新聞の配達員でした。

 後にその時のことを振り返るテレビ番組が放送されましたが、当時の一課長さんはスクープが出た時に、心臓が止まるかと思ったそうです。ところが、犯人はそのことには気づかず、新聞を配り終えて帰ってきたところで身柄を確保されました。

奈良小1女児誘拐殺人事件の犯人だった小林薫容疑者(当時)の自宅。ベランダには……?(写真:共同通信社)奈良小1女児誘拐殺人事件の犯人だった小林薫容疑者(当時)の自宅(写真:共同通信社)

──「マスコミは警察のリークを垂れ流している」と言われることに関して、警察とマスコミの実際の関係を説明されています。警察が容疑者を追い詰めるために、意図的に報道機関に情報を流すということはあるのでしょうか?

三枝:私はそのような形で警察から情報を託されたケースは少なかったですね。そういうやり取りは、地方紙と警察の間にはもっとあるのではないかと想像します。

 警察が地方紙などで小さな事件を大きく報じてもらうこともあります。大きく報じられると警察庁長官賞などの対象になりやすくなるので、逮捕状を出すことを、むしろ警察からマスコミに伝えることがあります。「逮捕へ」と大きく報じられたい警察の事情もあるのです。

 ただ、基本的に警察官はまずマスコミに情報を流しません。捜査関係者と仲良くなり、重要な情報を教えてもらえるようになる記者は100人中5人くらいだと思います。捜査の情報が頻繁にメディアにこぼれ出たら、警察は仕事になりません。研修などでも、捜査情報を絶対に口外してはならないことは厳しく教えられます。

 それでも情報が多少は漏れるのは、警察の中に不満分子がいたり、メディアととても近くなってしまう人もいたりするからです。私の先輩には、刑事の子どもの家庭教師をやってあげたという人までいましたから。