タイミーおじさんの仕事哲学

 Gさんの人生は波乱に富んでいる。

「実は大学出てるんですよ。二部だけど法学部。卒業後はスーパーに就職したけど1年半で辞めた」

 その後はフリーター、自殺未遂、工場や訪問販売など仕事を転々とした。そのたびに人に助けられたという。

「40歳手前で工事現場に入った時、ある親方に気に入られて、仕事をもらえるようになって。名刺まで作ってくれた」

 それからは建築業界に根を下ろし、今はGさんが人に仕事を紹介する立場になった。その頃に妻にも出会っている。

「オレは人に助けられて生き延びている。自分が恩を受けた分、今度は自分がよくしなきゃという思いでいる。だからタイミーみたいな働き方は不思議だね。一日だけ働いて、帰るだけ。人の縁が広がらない、寂しい世界だよね。便利だけど、反面これでいいのかなとも思う」

 Gさんがスポットワークを続けられるのは、本業があるからこそなのかもしれない。

 仕事も結婚相手も、機械が選んでくれる時代だ。個人と労働と通貨がアプリで統合され、山や谷を巡る一つの川になり、ビッグデータとして大海に吐き出される。人間は「グッド」か「バッド」で評価されるただのIDである。

「普段いる建設現場は古い業界だから、若いヤツが中途半端なことをしていると、メチャクチャ怒るおじさんもいる。でも、それには愛を感じるよ。パワハラだと言われちゃうから、そういうのはダメなんだろうけどね」

 仕事に愛とか持ち出すのは、古い人間の「不適切な表現」になるのだろうか。スポットワークには、愛の入り込むスキマもないのだろうが。

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若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。