ハラスメントの概念が膨張している(写真:graphica/イメージマート)
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「キボハラ」「ツメハラ」「コクハラ」「ルッハラ」──。かつて存在しなかった新型ハラスメントの言葉が日々生まれては拡散されている。そんな「何でもハラスメント扱いされる社会」で、どう振る舞うべきか右往左往している人も多いのではないだろうか。

世界はハラスメントでできている』(光文社)を上梓した辛酸なめ子氏(漫画家・コラムニスト)に、ハラスメントの概念が膨張していく社会背景と、肩の力を抜いて生きるコツについて聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──2024年11月9日の『週刊現代』では「社会を悩ます新型パワハラ44」が特集されていました。書籍でも取り上げていましたが、どのように感じましたか。

辛酸なめ子氏(以下、辛酸):あれだけ多様なハラスメントが増えているという事実に驚きました。

 一方で、私自身が「これはハラスメントではないか」と感じたエピソードもいくつか紹介しました。自分の思考も、本当に些細なことでもハラスメントだと感じてしまうようになっていると実感しました。何でもハラスメント化してしまうのが、今の社会の潮流なのだと思います。

──『週刊現代』中で特に印象的だったハラスメントは何ですか。

辛酸:キーボードのエンターキーを激しく叩く音で周囲を不快にさせる「キボハラ」。組織で働いている人は、思い当たる節があるかもしれません。ほかにも、職場や公共の場で爪を切る「ツメハラ」も紹介されていました。

 私自身、「ツメハラ」に遭遇したことがあります。仕事で出演したイベントで、同じ楽屋になった女性が急に爪を切り始めたのです。ほかの人もいるのに突然です。

「パチッ」という音が楽屋に鳴り響いて、すごく気になりました。なぜ今ここでわざわざ爪を切るのだろうと困惑しました。楽屋で自宅にいるような感覚になってしまったのかもしれませんが……。

──「コクハラ(告白ハラスメント)」というのもありましたね。

辛酸:脈がない相手に告白して気まずい思いをさせるというハラスメントですね。これをハラスメントと呼ぶなら、恋愛ドラマはハラスメントの連続になってしまいます。

 女性目線では、雨が降ってきて傘がなくて困っているときに、突然男性から傘を差し出されて「一緒に入りませんか」と言われる。それが不快に感じるのなら、それはもう立派な「カサハラ」です。

 相手の気持ちを顧みずに、手作り料理を作って独り暮らしの男性に差し入れしようものなら、それすら何らかのハラスメントになり得ます。挙げ句、部屋に上がり込んで、何かの拍子で転んで2人の体が折り重なるような展開になる。これは、純然たるセクハラではないでしょうか(笑)。

 もはや、恋愛ドラマが成立しなくなる時代なのだな、と『週刊現代』の記事を読んで感じました。