一般的なネグレクトとは異なるネグレクトが広がっているという(写真:yamasan/イメージマート)
仕事、家事、育児に追われる共働き世帯。親は疲弊し、子どもへの関心を失っていく──。昨今では、衣食住が満たされているが、親が子と向き合わず、子育てを過度に外注(アウトソーシング)する家庭が散見される。この状況を、矢野耕平氏(中学受験指導スタジオキャンパス代表)は新しい虐待、「ネオ・ネグレクト」と定義する。
ネオ・ネグレクトが生じる社会構造や世代間連鎖と、いかにしてネオ・ネグレクトを防止すればいいのか。『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社)を上梓した矢野氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
批判的な意見に欠けている子どもの視点
──本書出版後の反響は?
矢野耕平氏(以下、矢野):賛否両論の意見をいただいています。
「確かに身近にこういう事例がある」「自分もそうならないように戒めなければ」という肯定的な立場の方もいれば、批判的な言葉も多く見られます。例えば、「専業主婦とワーキングマザーの対立を煽っている」「ある特定の地域を批判している」というようなものです。
また「共働きが当たり前の時代に、仕事と育児の両立で追い詰められている親の気持ちに配慮してほしい」というコメントもありました。
ただ、このように賛否が分かれるという事態は、ある程度想定していました。
──批判的な意見に対してはどのように感じましたか。
矢野:もっともだな、というご意見も多くありました。けれども、ネオ・ネグレクトが広域的に存在することは明記していますし、ある特定の属性同士を対立させようなんていう思いはみじんもありません。
ただ、一つ気になっている点があります。例えば「親の立場を考えろ」「自分たちは苦しんでいるのにまだ責められるのか」というコメントです。そこに、「自分の子ども」という言葉がどこにもない点に、私は引っ掛かりを覚えています。
ネオ・ネグレクトは、親の問題以上に子どもの問題であるということを忘れてはいけません。本書では、中盤に「ネオ・ネグレクトをされている子ども」の視点で、私が見聞きした事例を紹介しなおすという仕掛けを施しました。
「自分たちが批判されている」「自分たちの立場も考えてほしい」という親御さんの気持ちは十分に理解しているつもりです。けれども、やはり私としては子どもの視点に立って、このネオ・ネグレクトについて考えてほしいと切に願っています。
志望校を塾に丸投げする保護者
──矢野先生の中で、特に印象に残っているネオ・ネグレクトの事例はありますか。
矢野:私は中学受験専門の学習塾を経営しています。10年ほど前の秋頃、ちょうど志望校を決める時期に、ある児童の保護者と面談していたときのことです。その保護者が「子どもの志望校を決めるのは面倒だから、先生がすべて決めてください」と言ったのです。それがとても印象に残っています。
私たちが中学受験指導のプロだから、少し知恵を借りようというのならまだ話はわかります。けれども、その保護者は本当に志望校選びを「面倒ごと」と捉えている。その一挙手一投足からそう感じられたのです。私は唖然としました。
ちょうど同じ頃、私立の中高一貫校の教員をしている知人が「最近の保護者は学校を託児所だと思い込んでいる人が多い」と愚痴っていたことを思い出しました。いわく、「試験に受かって入学して学校に預けさえすれば、子どもは勝手に育つと思っている親が多い」とのこと。
その話は先般の「先生が志望校を決めてください」と言った保護者の姿とかぶりました。これが、わたしがネオ・ネグレクトを意識したきっかけです。
